館内放送



N暦407年4月25日(月)9時15分


王国が与えた休日の2日め。



A-12号室・リビング──



 部屋の4人がテーブルを囲み、座っている。


「きのう町で猫を見たんだよ!」


 テンション上がりぎみの雄大が言った。


「猫が居たのか? おれらは犬を見たぞ。なぁ」


 ライアンがディエゴに確認を取る。


「うん。あれはパグだった…」


「やっぱり僕たちの世界の生き物がこっちにも居るんですね」と、小松。



 会話に割り込むよう、急なハウリング音のあと館内放送が入った──


「異世界人の皆さん、おはようございます……」


 ケイギの声だ。


「おい、なにが始まんだよ」


 ライアンは警戒心を強めた。他の3人も口には出さないが不安そうだ。


「非常に残念ですが、本日の死亡者を発表していきます……」


「ねぇ、今死亡者って言わなかった!?」


 小松が狼狽える。


「小野美奈、レイモンド・ホフマン、エミリー・レイン……」


 雄大は眉をひそめた。


 (レイモンドって、あいつか……)


 ケイギの読み上げは続く。


「……ジョージ・マーティン。以上の訓練兵が命を落とされたました。皆様1分間の黙祷を……」


 重い1分間の沈黙。


 目を開け、小松が真面目な口調で切り出した。


「きのうの夜、ベッドの中でずっと考えていたんですけど……」


 3人の視線が小松に集中する。


「僕たちは魔法の力でここに連れて来られました」


「信じたくないが、そうだな」とライアン。


「来たなら帰り道もあるはずですよね」


「普通に考えたらそうだな。でもここは何でもありの魔法の世界だぜ」


「ですね。でも抜け道がどこかに存在すると思うんですよ」


「抜け道? どういうことだ?」


「きのう何か見ませんでした?」


 雄大がハッとして「猫!」と答えた。


「そうです。普通に考えて小動物を徴兵のために呼び寄せますか?」


「それは確かにないだろうな!」とライアン。


「あくまで仮説ですけど、猫や犬がこちらの世界にも存在するのは、地球のどこかに繋がる道を通り抜けてきたからではないかと」


「道があったから、向こう側から来れたというわけか」


 ライアンは「なるほど」という表情を浮かべた。


「そうです。もしその道がどこかにあるなら、それを見つけて元の世界に戻ることが出来るかもしれない」


(戻る?……帰れるのか?……)


 雄大の心に、淡い期待の火が灯った。


「本当に道があるかは分かりませんが、僕は日本に帰りたい。また家族のもとに帰りたい。皆さんはどうですか?」


 小松は3人を見回しながら確認を取った。


「帰りてぇな」


「わしもだ……」


 ライアンとディエゴが続けざまに言う。


「おれも帰りたい。帰ってモノマネがまたやりたい!」


 雄大が真っ直ぐにそう言うと、小松は微笑んだ。


「じゃあ、みんなでもっと情報を集めましょう。帰れる方法を探してみましょうよ」


 小松が提案した。


「オレたちだけでは無理だ。…リュドスやケイギからも情報を貰おう」


 とライアンも意見を出す。


「うん……でも⋯⋯正直言うとおれは、ケイギさんが苦手なんだよね」


 雄大がそう言うと、


 小声でディエゴが「わしも苦手だ……」と、呟いた。



 4人で話し合った結果、まず今日の夜、リュドスに話を聞きに行くことに決まった。




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