こんな時でもおれたちは笑いたい・1


 これは、リタが向かいのA-11号室を訪ねる少し前の出来事。



 A-12号室内──


 テーブルを囲んで、雄大たちが4人が腰を下ろしていた。


 リュドスから「君たちは徴兵された」と聞かされた時のショックで、雄大の頭はぐちゃぐちゃだ。肝心の説明もほとんど覚えていない。


 他の3人も同じで、話し合いになった。


「じゃあみんなで、思い出したことを言っていこうぜ」


 ライアンが仕切り役だ。


 小松が「そういえば…」と口を開く。


 皆が彼に注目する。


「僕らが普通に会話できるのは、魔導具のおかげって、言っていませんでしたか?」


(そうなの!…)


 雄大は目を丸くする。


「確かにそんなこと言っていたような…2人は覚えているか?」


「おれは聞き逃したかも」と雄大。


「そう言っていた…わしははっきりと覚えている…」とディエゴが言う。


 断片をつなぎ合わせるとこういうことらしい。

 異世界人はそれぞれの地域の言語で話しているのに、聞く側の耳には自身の母国語に変換されて届く。


 ライアンの英語も、ディエゴのポルトガル語も、雄大には全部日本語で聞こえる。つまりこの世界にいる限り、言葉の壁が一切ないのだ。


(そういう仕組みだったのか!)


 雄大は、用意したノートに慌てて書き留めた。

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