リタとビン・4
A-11号室を訪ねたが、ビンのルームメイトから、どこかに出掛けたと聞く。
(あいつ大丈夫か……落ち込みすぎるとこあるからな…)
嫌な予感がした。
リタの背中に、とつぜん涼しい風が当たった。
振り返ると、向かいのA-12号室のドアが開け放たれている。どうやら奥のテラス窓から風が送られてきたようだった。
急に部屋の中から、ドッと笑い声が起きた。覗きこむと、A-12号室の4人が楽しそうに笑っている。
(こっちの世界に来て、こんなに笑っている奴らは初めて見たかもな……)
「変な奴らだな」と軽く微笑んだ。
また、リタの身体に涼しい風が当たった。
そのおかげで、気持ちがいくらか落ち着いた。
(さぁ…ビンの野郎を探しに行くか)
気分を入れ替えてから、その場を離れた。
■
タン、タン、とバスケットボールをつく音。すぐにビンはA棟の中庭で見つかった。
「おいっ、なに1人でやってんだよ!」
ビンに声をかけた。
彼はドリブルを止め、バスケットボールを両手で抱えたまま俯いた。
「リタさんすいません。おれ⋯昨日、実は1人で逃げようとし……!?」
ビンが話し切る前に持っていたバスケットボールをスティールで奪って、その場でボールを突いた。
「リタさん?」
ビンは呆気にとられている。
「なに辛気臭ぇツラしてんだよ。あんたは戦場でもよく逃げて、いつも誰かに謝ってさ…そんなことはもう、見飽きてんだよ」
「けど…今回のは知らない土地で、自分だけ逃げようとしたんですよ……」
「そんなのどうだって良いだろ。で、悩んだり仲直りするときは仲間内でどうやってきた?」
「……バスケです」
ビンが涙ぐんだ。
「1on1だ。負けたら酒奢りだよ」
ビンにドリブルで切り込んだ。
「はい!」
彼はそう返事して、腰を落としガードの体勢に入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます