リタとビン・4


 A-11号室を訪ねたが、ビンのルームメイトから、どこかに出掛けたと聞く。


(あいつ大丈夫か……落ち込みすぎるとこあるからな…)


 嫌な予感がした。


 リタの背中に、とつぜん涼しい風が当たった。

 振り返ると、向かいのA-12号室のドアが開け放たれている。どうやら奥のテラス窓から風が送られてきたようだった。


 急に部屋の中から、ドッと笑い声が起きた。覗きこむと、A-12号室の4人が楽しそうに笑っている。


(こっちの世界に来て、こんなに笑っている奴らは初めて見たかもな……)


「変な奴らだな」と軽く微笑んだ。


 また、リタの身体に涼しい風が当たった。

そのおかげで、気持ちがいくらか落ち着いた。


(さぁ…ビンの野郎を探しに行くか)


 気分を入れ替えてから、その場を離れた。



 タン、タン、とバスケットボールをつく音。すぐにビンはA棟の中庭で見つかった。


「おいっ、なに1人でやってんだよ!」


 ビンに声をかけた。


 彼はドリブルを止め、バスケットボールを両手で抱えたまま俯いた。


「リタさんすいません。おれ⋯昨日、実は1人で逃げようとし……!?」


 ビンが話し切る前に持っていたバスケットボールをスティールで奪って、その場でボールを突いた。


「リタさん?」


 ビンは呆気にとられている。


「なに辛気臭ぇツラしてんだよ。あんたは戦場でもよく逃げて、いつも誰かに謝ってさ…そんなことはもう、見飽きてんだよ」


「けど…今回のは知らない土地で、自分だけ逃げようとしたんですよ……」


「そんなのどうだって良いだろ。で、悩んだり仲直りするときは仲間内でどうやってきた?」


「……バスケです」


 ビンが涙ぐんだ。


「1on1だ。負けたら酒奢りだよ」


 ビンにドリブルで切り込んだ。


「はい!」


 彼はそう返事して、腰を落としガードの体勢に入った。


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