A−12号室・2


 ドアの方に向き直る4人。


 小松は、


「確か開ける魔法はドゥロ!でしたよね」

 

 と、魔法の鍵でドアを開けてみせた。


「すげぇな、本当に言葉だけで開くんだな」


 ライアンが大きめの声で言う。


 その隣りのディエゴは、ただただ口を開けて驚いていた。


(本当に魔法が使えちゃうんだ。すげえな)


 雄大はウズウズしていた。


「よし、入ろうぜ!」


 ライアンが、小松を抜かして率先して部屋の中に入ろうとした時、雄大の好奇心が止められなくなり、


「ラグ!」


 と言葉を発した。


 するとドアが動き、部屋に入りかけたライアンの体にドアがぶつかった。


「痛っ!」


 ライアンは廊下側に退き、ドアがバタンと閉まった。


「あ! ごめん!」


 雄大はライアンに謝った。


「……何でお前は急に閉めんだよ! 危ねぇだろー!」


「ごめん、ちょっと魔法を使ってみたくて」


「今じゃなくて良いだろ!」


 ディエゴがおろおろしながらも2人を仲裁する。

 

 「プッ」と小松が噴き出した。


「何がおかしいんだ!」


 ライアンが小松に言う。


「まあまあ、初日から喧嘩は止めましょうよ。僕たち今日からルームメイトらしいですから、協力していきましょう」


と、小松は微笑んだ。


ライアンは、


「おぅ…まあ、それもそうか」


と落ち着いた。


 小松の言葉はやわらかく、思った以上に優しい響きをしていた。

 彼には小川のせせらぎのような癒やし効果があるのかもしれない。


 雄大はもう一度ライアンに謝り、許してもらった。


 改めて小松がドアを開け、4人はA-12号室へと入っていった。


 開けると玄関があり、すぐリビングルームが広がっている。


 正面中央にはテーブルが1つ、2段ベッドが壁沿いの両脇に2つ。

 

 正面奥にはテラス窓とベランダ。右奥には出窓が1つ。左奥にはトイレとシャワールームに続くドアが並んでいる。

 

 雄大が住んでいた東京のシェアハウスと同じくらいの10畳ほどの空間だが、2段ベッドが2つ少ない分、部屋が広く見えた。


(だからといって何も嬉しくない……)


 複雑な気持ちになった。


 4人それぞれが自分の場所を探す。


 雄大のベッドは東京のシェアハウスと同じく上段にあった。


 2段ベッドのフレームには目立つように大きめのネームプレートが貼り付けられていた。


(この国の奴らは何でおれの名前を知っているんだよ…)


 プレートを見ただけで不快な気持ちになった。


 梯子に足をかけ、自分のベッドに入ろうとしたときだった。


「なぁ、みんな。とりあえず荷物置いたらちゃんと自己紹介くらいしねえか? なにかの縁で一緒の部屋になったんだからよ」


 とライアンが提案してきた。


 3人はそれに応じた。

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