A−12号室・1


「では最後に…各自、部屋番号の紙を確認してから、自分の部屋に行ってください」


 雄大は、ケイギから配られた紙を見た。


 そこには『A-12号室』と書いてある。


(これがおれの部屋番号か)


「部屋の場所は、通路の壁の案内板に載っています。部屋に入るときに鍵は必要ありません」


 リタは不貞腐れ、ビンは元気がない。 


「あなたたち異世界者には、このエドラド王国に到着した際に、遠隔の魔導具による魔法力の付与がなされています」


(もしかして、自分も魔法が使えるのか?)


 半信半疑であったがワクワクした。


「まずは自分の部屋へと行き、さきほどの私が見せたように、入居者自身がドアの前で『ドゥロ』と言えば鍵が開きますし、『ラグ』と言えば閉まりますのでお試しください」


 ふと、また視線を感じて振り向くとさっきの東洋人がこちらを見ていた。


(怖すぎなんですけど……)


「尚、鍵の言葉はどちらの部屋も同じですが、その部屋の入居者以外が魔法を使用しても開かない仕組みになっておりますので、そこはご安心ください」


 ケイギの淡々とした説明が終わった。


 案内板の前に立って、自分の部屋を探した。A-12号室は手前の階段から2階に上がってすぐ、通路の右側にあった。


 雄大は2階へと向かった。


🧙


『A-12号室』


 その部屋の前に、雄大と、3人の男性が立っている。

 

 欧米系、南米系、ずっと見てくる東洋系……。


 彼らは別の車でA棟まで来ていたので、雄大が彼らとしっかり会うのはこの部屋の前が初めてだ。


「あ、オレはライアン・ウィリアムズ。アメリカ出身だ」


 欧米系の男が名乗り、みんなと握手していく。そこから軽い挨拶が始まった。


「ディエゴ……ロドリゲス。ブ……ラジル出身」


 もじもじとしながら南米系男性が名乗った。


「小松颯人。日本出身です」


 と東洋人が短く名乗り、笑顔を浮かべた。


(この人……小松っていうんだ……)


 自分の番が来た。


「堂本雄大。日本出身です」


「知ってますよ」


 小松の言葉に(ひぃ〜)と震え上がる。雄大はまた彼に警戒心を強めた。



 突然、通路の奥側で、

「うわぁぁぁ!」という奇声がした。


 4人がそちらを見ると、レイモンドが廊下に座りこみ、叫んでいるのが見えた。


「何だよ、あいつ……急によ」


 ライアンが引きながら言った。


「きっと、彼は怖いんですよ」


 小松がレイモンドを気遣った。


 ディエゴは特に何も言うことはせず、険しい表情を浮かべながら、レイモンドを眺めている。


(あいつさっきまでは威勢良かったけど、もう限界が来たのかな……)


 雄大は、レイモンドに同情した。

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