異世界案内人・3


 男性は、よく通る声で自己紹介を始めた。


「俺の名は『リュドス・フォンヘルト』。エドラド王国の、異世界案内人だ」


(エドラド王国? 異世界?)


 雄大はその言葉を脳内で反芻はんすうさせてみたが、理解が追いつかない。

 

 みんなも、同じような反応だ。


 リュドスは、黒板に世界地図のようなものを描き、ある地点をチョークで押し当てた。


「エドラド王国はここだ」


 さらに、隣に見慣れない言語の文字を書き加える。

 

 しばらく見つめていると、それが何故か【コーズ】というカタカナに変化した。


 「え…なに?」


 思わず驚きの声を出すが、リュドスは気にも留めずに話を続ける。


「エドラド王国は隣国コーズ共和国と、すでに12年にわたり戦争を続けている」


「ねぇ…!!」


 凛とした雰囲気の褐色肌の美女が声を上げた。切れ長の目がさらに鋭く尖る。


「その話さ、今うちらがここに居る意味と何か関係あるわけ?」


 リュドスが振り返った。


「ああ、たしか君は『リタ・ヒート』さんだったな。2107年のライオス国出身の」


 その言葉に、彼女は面食らう。


「え?…、何であんたが、そんなこと知…」


「順序立てて話すといっただろう。話の腰を折らないでくれるか」


 彼女の抗議に被せるように、リュドスは言った。


 リタは苛立ちの表情を浮かべる。


「この状況で落ち着けって?…無理だろ! いきなりこんな所に連れて来られて、わけ分かんねぇーんだけど!」


 隣の席の東南アジア系の男が 「ちょっとリタさん!」とおろおろ慌てだす。


 リュドスは、皆の顔を順に見ては、憂うような表情を浮かべた。


「そうだな。君たちの気持ちを考えれば焦るのも分かる。では結論から言うぞ…」


 そして、容赦なく現実を突きつけた。


「君たちは、異世界から我がエドラド王国に徴兵された人間だ」


その瞬間、雄大の心臓の鼓動が異常なほどに脈打つのが分かった。

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