異世界案内人・2


 脳裏に浮かんだ風景が、そのあとプツリと途切れた。気づけば自分の身体がどこにもない。残っているのは、思考と感覚だけ。


 見えないトンネルの先を飛び続け、やがて出口に放り出される。その瞬間、自分の身体を取り戻す感覚があった。


 耳に人のざわめきが届き、目を開ける。


 ぼやけた視界に映った、見慣れない教室のような場所。壁掛け時計は【11時32分】を指し、日めくりカレンダーは【4月23日】を示している。──今日と同じ日付だ……。



(顔も、胴体も、手足も、ちゃんとある……)


 寝起きのようなぼんやりした頭で、椅子に座っている自分を確認した。


 部屋には30人ほどの若い男女。


 アジア人、白人、黒人……国も人種もバラバラだ。


 皆、同じように椅子に座り、不安げに周囲を見回している。


(どういう状況だよ……)


 ふと、視線を感じて振り向くと、東洋系の男性がこちらを見ていた。目が合うとにこりと笑う。


(なんか気持ち悪いな ……)


 胸の奥に不安が募る。


「お、到着したみたいだな」


 前方から快活な声が響いた。


 黒板脇にいる男性が、数歩前に出た。


 三十代前半くらい。金髪、碧眼。白いローブを纏った欧米人風。


 RPGの魔導士のような姿をしたその男は

、骨ばった顔立ちをしているが、イケメンの部類だ。


「こんにちは、堂本雄大くん」


 大きな声でハッキリと話す。


 流暢な日本語。外国人が話す片言の日本語ではなく、日本人が日本人に話す発音だ。


「えっと……あ…あの……」


 頭が混乱して、思うように言葉が出ない。


(何でおれの名前を……) 


「戸惑うのも無理はない。君以外のみんなも、今まさに同じことを感じているだろう」


 周囲を見れば、他の者も同じように顔が強張っている。


「君が目を覚ましてくれたから、これで全員の協力者が揃ったね」


「あの…協力者って…?」


「今からここにいる全員に説明会を開く。順を追って説明するから、慌てないでくれ」

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