第17話 直々に来るタイプ
木鈴と生徒Aの二人は、意気揚々と学生会館に到着した。だがしかし、学生会館は一階の扉から閉鎖されていた。看板などはなにも貼られていなかったが、鍵だけがかかっていたのである。
「今日って週末だったか?」
「週末ですけど、学生会館は開いている筈ですよ。」
生徒Aは、両手にロッド・ダウジングを掲げながら言った。そしてその時、ダウジングが微かに動いた。
「木鈴先生!どうやら裏の森の方にも反応があるそうですね、行ってみましょう!」
「それ、本当に使えるんだな。」
生徒Aは小走りになって学生会館の裏へと向かって行った。慌てて木鈴もその後を追っていく。だが木鈴は、この時にはもう些か冷静になっており、学者の勘から嫌な予感を抱いていた。
「なぁ君、一つ言い忘れていたんだが、」
木鈴は生徒Aを追いかけつつそう言った。だが言い切るよりも先に、木鈴は身体を硬直させてしまった。木鈴の危惧していた事、そして言い忘れていた事が、丁度目の前にあったのである。
「あれ、学園長、どうしてこんな所にいるんですか?」
枯れた木々の真下、さより様が埋葬されたその前に、学園長がひとりで立っていた。髪は真っ白で顔にも皺が目立っていたが、暗い深淵のような瞳だけはあの時の黒原のままであった。そして学園長は黒いコートを乾いた風に靡かせながら、生徒Aと対峙していたのであった。
「木鈴先生が病院から脱走したという連絡があったからね。」
「ああ、そうでしたか。」
「でも西沢君。君は少々白々し過ぎるんじゃないかね。」
そう言うと姿勢正しい学園長は、ポケットから右手を出して木鈴を指差した。
「彼を上手く使った様だね。全く、そういう姑息な手段を取るのは親譲りといった所かな?」
生徒Aは、いまいちこの状況がピンときていないようであった。それどころか、学園長に名前を覚えられている事にまず動揺している様であった。生徒Aは木鈴だけに聞こえるようにこっそりと言った。
「不味いですよ。私、学園長に顔覚えられちゃっています。まだなにもやらかしていないのに!」
木鈴は今すぐこの場で全てを解説してやりたい気持ちもあったが、そんな余裕はなさそうであった。学園長がコートから、狩猟用の銃を取り出したのである。木鈴は銃を森で出会ったやけに詳しい人に見せてもらった事があったので、それがライフル銃ではなく散弾銃である事が分かった。散弾銃はライフル銃よりも威力は劣るが、発砲後に弾が多少拡散する為、避けづらいといったデメリットがある。
「うわっ!木鈴先生、何かよく分かんないですけど逃げましょう!」
生徒Aは本能から殺気を感じたのか、咄嗟に逃げを提案した。しかし、学園長は躊躇しなかった。あっさりとその引き金に指をかけると、生徒Aに向って発砲したのであった。その距離はたった五メートル程であったので弾はそれ程拡散せず、生徒Aの左脇腹を中心に当たってしまった。
「学園長!正気ですか⁉」
深い傷を負った生徒Aは、呻き声を上げて倒れ込んだ。地面には落ち葉が敷き詰められており転倒の衝撃は少なかったかもしれないが、撃たれている時点で致命傷であるのは間違いなかった。
しかしながら、発砲音はかなり大きく響いた。おそらくは近くの研究室棟の二つや三つにはその音が届いている筈であった。週末であっても、誰も研究室に居ないなんて事はまず有り得ない。誰かが不信に思って警察に通報してもおかしくないのである。
だが、学園長は余裕そうな表情であった。そして弾を装填し直して、次の標的を木鈴に移していたのであった。
「木鈴先生。貴方この前、私にイノシシ駆除を申請してきましたよね?」
「そういえば、そんな事もありましたね!」
そういえばそんな事もあった、だがこんな結果で返ってくるとは誰にも想像出来ないだろうと、木鈴は言おうとした。だが、それは派手な発砲音で掻き消された。無情にも、学園長が散弾銃を発砲したのである。こんな奴に銃を持たせるなと、木鈴は誰かにも分からず胸中で文句を言った。そして撃たれた腹を押さえつけながら、あっけなく倒れたのであった。
だが木鈴は倒れて意識を失う直前に、テレビでよく見るような、衝撃的瞬間を目撃した。トドメを刺そうと近づいてきた学園長に向って、一頭のイノシシが勢いよく突撃してきたのである。
真っ直ぐ走ってきたイノシシはそのまま学園長を避けるでもなく、学園長の脚を突き飛ばしてそのまま去って行った。突き飛ばされた学園長は、そのまま体勢を崩して転倒した。だが、そこには偶々偶然または必然か、落ち葉の層を突き破る程の、大きな木の根っこがあったのであった。
その一部始終を見やると木鈴は気絶した。だが最後に木鈴は、ざまあみろと、そっと心の中で思ったのであった。
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