第30話

「はぁっ…はぁ…ふぅ……」


 駐車スペースに辿り着いた雄二が周囲を警戒する。


(大丈夫だ…大丈夫…)


「……」


 駐車スペースには2台のバイクが停められていた。小型バイクと大型のバイク。その状態を素早く確認していく。


「…クソ。2重ロックされてるな……」


 2台が2台共通常のキーロックとは別にタイヤ部分にチェーンロックが取り付けられている事に雄二は気が付く。


(これは特殊な工具が無いと無理なタイプだ)


「……」


 後ろ髪を引かれつつも雄二はバイクから離れ車の駐輪スペースへと移る。息を殺し、姿勢を低くしながら1台1台の状態を素早く確認していく。


(1台目は……ダメか)


 明らかにロックが厳重なタイプの新車を見て雄二がため息を着く。


(2台目は…)


「…っ!?」


 何が起こったのだろうか。顔がグチャグチャに崩れた状態のゾンビが2体、車内で蠢いていたのだ。


「「おああああああああああああああああああ」」


(何なんだよ…)


 薄気味悪さを感じながらも雄二が次の車へと向かう。


「あれは……」


 白色に四角い形状が特徴の車に雄二が近づく。


「…あっ!?」


 窓越しに中を確認した雄二の口から声が漏れる。エンジン部分に鍵が刺さっていたのだ。


(行けるか?…いや、行けるはずだ。そうじゃないと困る)


「…頼むよ」


 ゆっくりとドアに手を掛け開けようと力を入れる。だがドアは開かない。


「……っ!!」


 ガチャガチャという音だけが鳴り響く。


「……」


 同じ動作を4回繰り返す。それでも現実は変わらない。ドアは閉じたままだ。


「……が」


 そしてついに溜まり貯まった雄二のストレスが限界を超えてしまう。


「…が……があああああああああああああああああああああああああ!!」


 怒りで視界を真っ赤にした雄二がついに発狂。絶叫を上げながら壊れたゼンマイ人形のようにガチャガチャと無理やりドアを開けようと行動を続ける。


「があああああああああああああああ!!」


 そして、この行為が最悪の状況を引き起こしてしまう。


「ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ」


「っ!?」


 車から大音量でブザーが鳴りだす。怪しい衝撃を感知した車の防犯装置が作動してしまったのだ。


「うぎぎっ……」


 全ての選択が全て裏目に出てしまう。大音量を聞きつけた大量のゾンビがゆっくりと雄二に近づいて来ていたのだ。それでも雄二は体の主導権を取り戻せずにいた。


(このまま冷静になってしまえばゲームオーバだ。分かっているだろ雄二?)


「ああああああああああああああああああ!!」


(そうだ。今必要なのは理性じゃない。暴力だ。衝動に身を任せろ。俺は既にマスターキーを持ってるんだから)


「ふっざけんなよぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!!」


 雄二が手にしていたデッキブラシの柄をガラスへと叩きつける。


「おおおおおおおおああああああああああ!!」


 ガン!ガン!ガン!ガン!と、何度も何度も狂ったように叩き続ける。雄二の脳のリミッターは怒りによって外れている。限界を超えた力によって窓ガラスがついに割れた。


「くそがっ…!!」


 窓に手を突っ込み、大急ぎでロックを解除。車内に飛び込もうとする雄二。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


「ぐっ…!?」

 

 だがそれよりも早く近づいてきたゾンビに雄二が組み付かれてしまう。

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