2-2 大学生活

 春の桜が山河市で咲き始めた。4月中旬、桜並木の下を歩いてゆくのは、すこぶる気分が良い。短大のキャンパスライフは、充実していた。初めてのことばかりで、私は刺激的な毎日を過ごしていた。


「あんずさん、おはよう」

 私に声をかけたのは、同級生の水沢カエデさんだった。

「おはよう、カエデさん」

「一緒に学校まで行っても良いかしら」


 ⎯⎯ 水沢カエデさん。今年一緒に入学した、同じグループEのメンバー。入学式に先立って学校で集まりがあり、その時同じグループだったのだ。


「今年も桜がキレイね」

 私がそう云うと、カエデさんは満面の笑みで答えた。

「私、植物が好きなの。桜や檜なんかが特に好きなんだ」


 カエデさんはそう云って、空に伸びる桜の枝を、目を細めて見上げた。カエデさんの長い髪が、歩く度に揺れた。


「私、本当は樹木医になりたかったんだ」

 少し、照れ笑いを浮かべて、カエデさんはそう告白した。

「そうなんだ。私、高校が商業科だったの。どうしても、文学や文化学の勉強がしたくて、この学校を選んだんだ」

 私は少し心が和んで、そんなことをつぶやいた。桜の花びらが舞い、私たちの髪の毛に振りかかった。

 カエデさんが口を開いた。

「一年浪人して、樹木医になる道も、あるにはあったの。でも、実家の家計のことを考えて、この短大にしたんだ」

 カエデさんは辛そうだった。私も口を開いた。

「私、この短大で何かが見つかる気がするの。見失っていた『何か』が。それが何ななのか、まだ分からないのだけど……」

 カエデさんが、大きな目を見開いて答えを返した。

「見つかると良いね。あんずさんの未来が。わたしも新しい自分を探したいと思っているのよ。サークルにでも、入ろうかな」

「サークルかぁ。サークルもいいね。でも私、知り合いからアルバイトを勧められているんだ」

 私がそうこぼすと、カエデさんは興味深そうに尋ね返した。

「何のバイト?」

「フリーペーパーの編集アシスタントなの」

「あ、それ『すきです山河市』じゃない?」

「カエデさん、知ってるの?」と私。

「結構有名なのよ」

「へぇ、そうなんだ」

「日売新聞に折り込まれてくるのよ」

「私の家、日売新聞じゃないの」


 私たちは、桜舞う空を見上げた。

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