第9話  婆、燃える!

 謹慎が解けて、学校に帰ってきた妙は目が違っていた。授業を一生懸命聞くようになった。放課後は図書室で多田野君と勉強する。真剣に勉強する妙の姿を見ていて、多田野君は圧倒された。


「妙さん、図書室が閉まるよ」

「ほな、カフェで続きやろか」

「いいけど、どうしたの? 妙さん。急に猛勉強を初めて」

「私、中学時代は諦めた。男は高校で探す。そのために、進学校に行く」

「僕も猛勉強を始めたところだから、タイミングはいいんだけど」

「ほな、進学校に入学や」

「そうだね」

「進学校に行けば、ええ大学に行く者、ええ会社に就職する者が多いからなぁ」

「医学部に行く人もいるかも。僕は医学部を目指すけどね。妙さんも本気で医学部を目指す勉強をしたら? 金持ちの男を捕まえなくても、自分が金持ちになれるよ」

「よっしゃ、それでいこう!」

「あとさ、前から気になってたんだけど」

「なんや?」

「なんで、コーヒー代をいつも僕が払ってるの?」

「男やろ? 払わんかい。その程度の甲斐性も無いんかい」

「妙さん、お金が無いの?」

「あるで。普通に小遣いもらってるもん」

「じゃあ、なんで出してくれないの?」

「嫌や、勿体ない。多田野君もコーヒー代くらいええやろ?」

「毎日だからね。小遣いが削られていくんだよね」

「どうせ、デートすることも無いやろ?」

「無いけど」

「ほな、ええやんか。私は自分のお金を出したくないだけやねん」

「じゃあ、デート代が必要になったら、僕はもうコーヒー代を出さなくてもいいの?」

「そういうことやけど、なんや、好きな女子ができたんか」

「うん、告白しようと思う」

「誰や?」

「美崎麗香ちゃん」

「ああ、あのチヤホヤされてる女か」

「告白するんだ」

「あんた、アホか?」

「なんで?」

「美崎ちゃんは、“中学生でお付き合いするのは早いと思うのでお断りします!”って断るんやで。有名やろ?」

「うん、知ってる」

「ほな、告っても玉砕するだけやんか」

「だから、“高校生になったらお付き合いしてください!”って言うんだよ」

「なるほど」

「今、美崎さんは実力テストで学年3位、僕は4位。彼女に近付いたからね」

「ふーん、まあ、頑張りや」

「あれ! 冷たいなぁ」

「他人の恋愛話なんかどうでもええわ」

「僕、かなり妙さんの相談に時間を費やしたよ」

「ふーん、そうか、それで?」

「それで? って言われても」

「あんたに相談しても、私は失敗したやないの」

「それは妙さんのアプローチの仕方が悪いんでしょ」

「もうええわ、あんたは当たって砕けたらええねん」

「砕ける前提なんだ」

「あんた、家に鏡は無いんか?」

「その言葉、そっくりそのままお返しするよ!」



「なんや、元気やな」

「告白したんだよ、美崎さんに。“一緒の高校へ行きます。高校に入ったら付き合ってください!”って」

「ほんなら?」

「ふふふと笑ってから、“考えておきます”って言われたよ」

「あんたはアホか? 美崎ちゃんの行く高校、知らんのか?」

「え! どこの高校?」

「女子校やで」

「え! 妙さん、その情報は間違いない?」

「うん、あんたのために調べたらスグにわかった」

「そんなぁ……一緒の高校に行けないじゃん」

「そういう時は勉強や! 勉強して苦しみを乗り越えるねん」

「そうだね! ようし勉強だ-!」



 勉強に燃える2人だった。そして、2人は高校生になった。







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