戻ってきた者たち
ドライブ
神たちが黄昏館を発ってから一週間ほど過ぎた。
慧は普通の日常に戻り、そして今、大学は学園祭のため一週間ほど休みになった。
慧は部活やサークルなどに参加していないため学園祭でやることはないため、ただの休みである。
そんな休み初日の朝。
「やっほー、慧ちゃん!」
レナが慧の家に遊びに来た。
レナも今日から学園祭休みで遊びに来たのだ。
「レナ、相変わらず早いな」
レナは今日秋らしいデザインのワンピースを身に着けている。
「今日は私の大学の学園祭に遊びに来てヨ!」
「え!」
確かに以前そんな話をしたなとは思っていたが、レナの大学に行くのは少し気が引けた。
(遠いしなぁ)
そんな心の声を聞いたかのようにレナはジトっと目で慧の顔を覗き込む。
「私、慧ちゃんのデートアドバイスしたんだけど?」
レナは意地悪な顔を見せて笑う。
「あれは、デートじゃないって」
「私ショックだったんだけどなー」
レナは肩をゆする。
こうなると慧は何も言えない。
「わかりましたよ」
レナにはあの時のお礼をしたいと思っていたのだ、今日は彼女に従うことにした。
レナの運転で都市部へ向かう。
道中いくつかの峠道を超えていく。
その一つの峠で何か石碑が立てられているのが見えた。
「ここなんかあったの?」
「あー、ここでね昔事故があったんだって。男女が乗ってた車がここのカーブで事故が起こったんだって」
「そうなんだ……」
「それ以来夜にこの道を通ると亡霊を見るらしくてね」
それで作られたのがあの慰霊碑ということか。今でもここには花が手向けられているのか。
きっと素敵な二人だったに違いない。
「レナはこの道通るんでしょ? 見たことあるの?」
「幽霊なんてみたことないよ」
こんなこと、あの旅館でバイトなどしていなければ訊くことは無かっただろう。
「事故か……」
慧がぽつりとそう呟くと、レナは息をのんだ。
「思い出しちゃった……?」
レナは少し眉を下げた。慧の様子を心配している。
「大丈夫」
慧は心に浮かべた。両親のこと、あの日の事故のことを。
忘れたことは無い、あの時のことを。
忘れたことは無いのに、なぜかよくは思い出せない……。
少しだけ息が上がるのを感じた。
***
「ここが私の大学です!」
いくつかの高いビル、慧の大学とは違う都市的な建造物。
見慣れない景色に慧は圧倒される。
首を上げていると痛くなった。
敷地は慧の大学の方が広いのだろうが、どこかこちらの方が大きく感じる。
「んー、偏差値高そうな造り」
「何言ってるの? この辺の大学は皆こんな感じだよ」
レナは声を出して笑った。
レナの案内で大学の施設を回った。
レナの友達を紹介されたり、外で写真を撮ったり、出店のものを買ったり非日常を過ごす。
学園祭には高校生も多く来ている。
「ここの大学を志望している高校生かな」
「懐かしいね。一年前のことだけど、大変だったなぁ。受験勉強」
(あと、夏祭りを思い出すな)
町の片隅でひっそりと明かりをともした、たい焼き屋をして多くの人に売ったのは初めての経験だった。
(まさか幽霊にも商売するとは思わなかったけど)
「しかし、何で俺をここに連れてきたの?」
純粋に、疑問だった。慧にとってここは何の関係もないこの場所になぜレナは連れてきたのか。
レナは慧に向き直った。
何か特別な意味でもあったのか。
(もしかして、彼氏ができたから紹介したい、とかだったりして?)
訊いてしまったことに慧は少し後悔した。
自分とレナはただの幼馴染、それ以上の訳はない。
(でも……)
本当にそうなら自分はどんな顔ができるだろうと不安になる。
「あの……、一緒にドライブしたいなぁって」
レナは少しだけ明日の方向を向いて恥ずかしそうに言った。
「……」
慧も少し恥ずかしくなって顔をどこかの方向へ向けた。
***
「あと行きたい所があるんだ!」
レナはまた車を走らせた。
慧の住む町に戻っていく。
「暗くなってきたね」
またあの慰霊碑の峠、そのカーブに差し掛かったその時、
「!」
二人の目の前に突如「真っ白な何か」が向かってきた。
「うわっ!」
「きゃっ!」
レナは慌ててブレーキを踏む。
ギュンと車は急停車した。
「何……今の⁉」
何かにぶつかった衝撃はなかったが、あれはなんだろうか。
止まると同時にレナは車を飛び出して前の方を見に行った。
「はぁ、はぁ……」
慧は一人、車の中で呼吸を整えていた。
「慧ちゃん! 大丈夫⁉」
戻ってきたレナは苦しんでいる慧を見つけると、背中をさすりはじめた。
額からは汗が垂れた。
胸が苦しい。
これは、あの時巻き込まれた事故……。
頭の奥にしまい込んだ記憶が慧の中から出てきた、気がした。
しばらく休むと慧の気持ちも落ち着いた。
「ごめん、大丈夫だよ。そっちは大丈夫だった?」
「うん……何もなかったよ……。ビニール袋が飛んできたのかな……」
確かに白いものが向かってきていた。
ぶつかったのだろうか?
あれは、人なのか、動物なのか、はたして……?
二人はその件については話さなかった。
信じたくはないが、はっきりと顔があった気がした。
女性のような顔が……。
あれは本当に亡霊だったのだろうか。
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