第四話 意図せぬ結果
「あのね、私は貴方を洗脳したい訳では無いの。本当に申し訳ないと思ってるの。
それは本当だから信じてね?」
眼の前にはとっても美しい女性が居る。
女性だ。
知識としては先程取り戻したが、実際に女性に、いや、人間と合うのがあまりにも久しぶりで、対応の仕方は知識として入っているが、うまく行動につなげることが出来ない。
「仕方がないわよね……こんな、こんな過酷なことをさせて、今更謝られてもこまるわよね……」
「……あ、あの、そ、そもそも、私、何に謝られていて、私は、何?」
「あ、えっとそうよね。
ひとつひとつ話していくわね。
まず、貴方はいい方はアレだけど、神に選ばれてこの世界を救う役目を持って生まれたの。
貴方以外にも、なぜか呪いって呼ばれてしまったけど、この世界を破壊する因子を壊せる特殊な能力を持って生み出されたの。
私達も全能じゃないの、どうしてもこんな手段を取らざるを得なかったんだけど、想像よりも過酷なことにあなた達を巻き込んでしまって。
特に貴方はたった一人で最大の障害を取り除いてくれて、本当に感謝しているわ」
「神に選ばれた? 世界に呪われた私が?」
「本当にごめんなさい、神の力は強大だから、普通の人間には体調を壊したり、その、見方によっては……呪いっぽく、感じてしまうというか、この世界の創造神がその、禍々しいの好きで……神聖が強いほど、デザインがおどろおどろしくなったり、その、効果には対価がとかをこじらせてる人で……も、もう大丈夫だからね、今は私がこの世界を管理する立場についたからあなた達につらい目を合わせないように努力するわ! まだ、なれてないこともあるけど、こ、これからは大丈夫!」
「は、はぁ……」
「そ、それでね。他の人達も役目を終えたあとはのぞみを叶えて生まれ変わっていったから、貴方は特に莫大な成果をあげてくれたから、大サービス出来るわよ!
なにか望みを言って!」
「の、望みですか?」
望みも何も、先程取り戻してくれた人間らしい知識と、自分の感情がうまく結びつかないレベルなのに、望みなんて……
「貴方のような素敵な女性と幸せな家庭を築いていければいいなと思っていました」
「……へ?」
【面白い!!】
急に俺の下腹部が話しだした。
「は?」
「は?」
【叶えちゃうね! それ、最高! 人の創った世界を馬鹿にした報いを受けるがいい!
あ、でも、簡単に叶えちゃうとつまらないから、頑張って、見つけてね】
「な、何言って! え、嘘!! どうやって、え、嘘でしょ!?
権限が!!」
女神様の足元に魔法陣が現れ、光の糸が女神様を縛り上げる。
体のラインが、あらわになって、エロい。
「な、何がどうなって……?」
【何も与えないけど、奪ったりはしないよ、君は頑張った。
そして、クソ後輩! お前は許さん! 力の差を思い知れ!
帰ってきたかったら頑張ってフラグを立てるんだな!】
「な、なんてことを! 悪趣味変態糞野郎!!」
足元の魔法陣が上がって女神様を飲み込んでいく。
【ふははははは、せいぜい頑張って彼を見つけて救い出してもらうといいさ!】
「や、やられたーーーー!!」
美しい女神様がシュルンと消えてしまった。
「な、何が起きて……?」
突然、眼の前が真っ暗になった。
そして、落ちている。これは確実に落下している!
非常事態なのに、いまいち感情が高ぶらない。
焦りを感じない。
【さて、失っていた物を返そう】
何者かの強大な存在が俺の何かに触れる気配を感じる。
自分の中の何かがハズレて、今までに得た経験が流れ込んでくる。
「うあああああああ!!」
頭が割れそうになる。小さな容器に膨大なものを詰めようとしているような感覚だ。
【確かに、これじゃ壊れちゃうな。しかたない、あの女の制御は残すか……】
停止して固定された肉体が、記憶と経験の積み重ねによって変化していく。
【得るべき力を得られるよに、少しだけ変えたけど、その力は間違いなく君自身で掴んだものだ。
誇っていいよ。君は僕の最高傑作だ。
これからは、ちょっとだけ、楽しい人生になるよ。
まぁ、楽しんで】
「あ、あの、貴方は……?」
【君の人生は楽しく眺めているよ、手は貸さないけどね。
僕の名はケイウス。自由に生きて、死に給え】
ぶつん。
すべての景色が、消えた。
「眩しい」
日差しが強い。
背中がひんやりしている。
ざざー、ざざーと波の音が聞こえる。
身体を動かすと、どうやら砂浜に居るようだ。
薄っすらと目を開けると強力な日光でとても目を開けられない。
身体を転がし、なんとかゆっくりと目を明るさに慣らしていく……
「こ、ここは……」
ようやくしっかりと目を開け周囲を見回せるようになる。
長い白い砂浜、海岸にはとめどなく波が寄せては返している。
空には大きな太陽、そして雲一つ無い青空。
「美しい……」
その風景の全てが俺の心を震わせた。
なんと自然の美しいことか。
俺は自分の身体を……身体を……
「な、なんじゃこりゃ!!!」
自分の体を見下ろして、一番の感情の変化がおきた。
自分の身体が、滅茶苦茶に変わっている。
「と、言っても、言うほど以前の自分の身体を覚えてないわけだが……」
今の自分の体を、頭の中にある知識で説明すれば。
極限まで鍛え上げられ絞り込まれた筋骨隆々な肉体だ。
試しに近くに落ちていた流木を掴み、軽く力を入れただけで、粉々に砕いてしまった。
「これは、気をつけないと危険だな、魔力は……ああ、やっぱりか」
自分の内に意識を集中すると魔力の流れを感じることが出来た。
流れ、なんてかわいい表現をしたが、これは、なんというか、大河だな。
膨大な魔力が凄まじい勢いで体中を駆け巡っている。
そして、俺はこの魔力の扱いの全てを心得ている。頭が、身体が、知っている。
肉体の力の扱い方も、知っている。
無手だろうが、剣を持とうが、槍を持とうが、特に短刀などを持たせようものなら、この世に俺を倒せるものは、たぶん、あまりいないだろう。それが、解っている。
「とんでもないことになったな。
とにかく、動くか……」
いつまでも生まれたままの姿でいるわけには行かない。
俺は、歩き出した。
新しい人生を。
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