第16話 『真意』

――パチッ


 あれから私は、レオ様と共に『盾の英雄』ことガイオスさんの行方を追っている。


 以前として足取りは掴めず、私とレオ様は暖を取る為に焚き火にあたっていた。


「「……………………」」


 お互い無言の私たち。なんでだろ? 聞きたいこと、話したいことが沢山あるのに。


 うぅ……これじゃ間が持たないよぉ><


「ヒメナ」

「は……はいっ」


 不意にレオ様に呼ばれて、私はドキリとした。


「色々とすまなかった」


「え……? 何故レオ様が、謝るのですか?」


「私が『婚約破棄』したばかりに、子爵家から『追放』されたと聞いた。さぞ苦労したろうに」


「あっ……いえ、レオ様が謝ることじゃないです」


 私は慌てて、パタパタと手を振った。まさか『あんなこと』になるなんて、私自身も予測できなかったもん。


「だが私は……自らの心を『偽って』しまった」


 え…………?


 レオ様と目が合った。


 それはどういう……


「ヒメナ、正直に言おう。あの婚約破棄は、私の『本意』ではなかった」


「えっと……すみません、レオ様。仰ってる意味が分かりかねます」


 私は混乱して、それしか口に出来なかった。だってレオ様は、私を『嫌って』婚約を破棄したんじゃないの……!?


「私は『臆病』だった……」


 レオ様の『告白』は続いた。


「私は幼少期より、父である皇帝から『婚約相手』を決められていた。私の『意思』とは無関係に……。その相手は、公爵令嬢のロセナラ・ヘクセ・プロブデスだ」


「なっ……」


 私は驚きを禁じ得なかった。公爵令嬢ロセナラ……彼女と私、そしてレオ様は『同じ学園の同学年』だ。


 学園時代も家柄などよく比較され、私はロセナラ本人や取り巻きに、よく嫌がらせをされていた。


 そして、なにより……


 ロセナラは当時、レオ様に相当熱を上げていた。それこそレオ様に『最も相応しい』のは、自分だと信じて疑わなかった。


 だけどレオ様は、公爵令嬢の彼女より『幼馴染み』の私を選んだ。


 私とレオ様が付き合い始めてから、ロセナラはあらゆる『妨害工作』をしてきたけど、いずれも『失敗』に終わった。


 それからだ。彼女が私を、異様に『敵視』するようになったのは。


「あのロセナラが……」


「無論、私も父上に反発した。婚約相手くらい自分で選ぶと。しかし……私には、父上を『説得』するほどの器量はなかった。婚約者は、ロセナラ以外認めないと頑迷だった」


 そんな事があったのね……。私は正反対で元父母から、絶対にレオ様と婚約を成立させろって半ば脅されてた。あの時のプレッシャーは凄かったなぁ……((T_T))


「……故に私はあの時、ああ言うしかなかった。皆の手前、本当のことを言うことも出来なかった。その結果、ヒメナを深く傷つけた。本当にすまなかった……今さら詫びても遅いと思うが、今の私にはこれしか出来ない」


「レオ様……一つだけ『確認』させてくださいませ。私と一緒になりたくなくて、婚約を破棄したのではないのですね?」


「女神に誓って、それはない。私の『本懐』はヒメナ……君だけだ」


 それを聞いた途端……


 私の中で何かが弾けた――


 今までずっと、私はレオ様に見合わないと思っていた。数えきれないほど中傷もされ、家族からも冷遇された。


 レオ様のお心にもう私はいない……いつしか、そう考えていた。婚約を破棄されたあの日……それが『決定打』となった。


 けれども……


 レオ様は今も、私のことを想っていてくれた。学園時代となんら変わらない、あの頃のレオ様だ。


 私の中で、長年の溜飲りゅういんが下りた。気づいた時、私の頬を涙が伝っていた。


 レオ様はそんな私を静かに抱き寄せ、胸を貸してくださった。私はレオ様の胸の中で、声を出して泣いた。


 私の最愛の男性ひと…………


 もう二度と離れないでほしい――

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