第8話 木人
何かを思いついたらしいマーヤは、一葉を連れて帝都をいったん出て、帝都から少し離れた森林地帯に馬車を走らせた。
「ちょっと、まさかモンスターの相手をさせるつもりじゃないでしょうね?」
人を人と思わぬマーヤのことだから、また無茶なことをさせようとしているのではないかと、一葉は戦々恐々としていた。
「まあ、それもありかもしんないッスけど、人間の大男の対策するんスから、やっぱり、それに近いものにしないと……っと、お目当ての人物はっけ〜ん♪」
マーヤの視線の先にいたのは、大木に大斧を打ち込む木こりだった。
「こんちわー、ちょっとお願いがあるんスけど」
マーヤは木こりの前で馬車を止め、木こりに話しかけた。
その木こりは50代くらいの中年で、仕事柄なのか上半身はかなりの肉付きだった。
「ちょっと、この人にスパーリング頼もうっての?」
一葉はマーヤの耳元で小声で問いただす。
確かにその木こりの上半身の筋肉はなかなかのものだったが、背丈はどちらかというと低く、大男とは言い難かった。
「違うッスよ」
マーヤは短く否定し、荷物の中から紙と筆とインクをとり出し、さらさらと何かの絵を描き始めた。
「こちらで切ってる木でこういうものを作って欲しいんス」
マーヤは描き上がった絵を木こりに見せ、木こりはその絵を見て「ふーむ」と唸る。
「こいつはそこそこ手間がかかる。もちろんタダってわけじゃないよな?」
「そりゃ、もう。こんくらいでどうスか?」
マーヤは懐から金貨数枚を取り出し、木こりに渡す。
「前金ッス。こちらの指定通りのものが仕上がったら、同じ金額を後払いで支払うッス」
金額をに満足がいったらしく、木こりは満面の笑みでうなずく。
「いいだろう、引き受けた。明朝までに仕上げよう」
話がまとまり、二人はその近辺で野宿し、翌朝を待った。
翌朝、出来上がったのは木製の人型の部品だった。
頭部、胸部、腹部、骨盤部、上腕、前腕、拳、大腿、下腿、足が、ばらばらに無造作に地面に置かれていた。
「これで何をしようっていうの? まさか、木人でも作ってそれ相手にトレーニングにしろってこと?」
一葉は怪訝な顔で横たえられた部品をまじまじと見た。
それならそれでもっと違う形にしなければ立位にすることができないし、動かぬ木人相手では全くの無駄とまでは言わないが、シミュレーションとしての効果が乏しい。
「ぬふふふ……ボクの傀儡魔術は人間だけじゃなくて、無生物にも使えるんスよ」
マーヤの両手の指から光の糸が伸び、人型に絡みつく。
ばらだった部品は一本の筋が通ったかのように動き出し、まるで本当の人間のように立ち上がった。
「な……なるほど……」
木の人型——木人は全長190cmはあり、その迫力に一葉はたじろいだ。
「さあ、どっからでもかかってきてくださいッス!!」
マーヤの糸に操られ、動く木人は滑らかな動作で格闘の構えをとった。
「OK!! じゃあ、遠慮なく行くわよ!!」
一葉も構えをとり、木人と組み手を開始した。
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