　価値の転換とは異なる位相を示すものとして2010年代後半にメジャーデビューし、2020年に人気を博しているミュージシャン、ナナヲアカリの作品群がある。ナナヲは「ダメ天使」をキャッチコピーとするように、「ダメさ」や「生きづらさ」を歌い上げる。確かに「ダメ天使」という言葉遣いはダメさを可愛さとして描いているかのようである。だが、彼女の作品に出てくる登場人物に「寄り添う」ことは可能だろうか。不可能である。

　ナナヲは「弱さ」や「ダメさ」を持った人間について歌う。そうした人間の「ひとりで生きた気にそりゃなるさ　みんな自分のことで精一杯』（ナナヲアカリ, 2019年, 「イエスマンイズデッド」作詞：ナナヲアカリ　作曲：ナナヲアカリ　編曲：Sori Sawada）、「だって自分の事だけだって精一杯でしょう　だってこんなに叫んでも見向きもしない」（ナナヲアカリ, 2020年, 「事象と空想」作詞：バルーン　ポエトリー：ナナヲアカリ　作曲：バルーン）と孤独や孤立状態に陥った時に誰からも手を差し伸べられないことや、「信じたあたりで　炎上してやるぞ」（ナナヲアカリ, 2019年, 「イエスマンイズデッド」作詞：ナナヲアカリ　作曲：ナナヲアカリ）と手を差し伸べた後で掌を返された経験が描かれる。

　このような経験をした人間が、「嫌いでも話し合ってわかりあえばいいんだろね　それだけはフザケロって　はね返すよ」（ナナヲアカリ, 2019年, 「人類殲滅のテーマ」作詞：朝日ネクライトーキー　作曲：作詞：朝日ネクライトーキー　編曲：朝日）と思ったとして不思議ではないだろう。

「弱さ」で苦しみのただ中にいる人間に「寄り添う」ことは困難なのだ。対話しようとする人間や寄り添おうと差し伸べられる手を振り払うのである。