3.マイノリティの異議申し立てとざまぁ系・異世界転生

 この環境に対する考え方は、福祉における「強さ」や「弱さ」が環境によって生み出されたものだと考える「社会モデル」と同じものである。「社会モデル」に近い考え方は、いわゆる「ざまぁ」系と言われる作品群にも見られる。一般的でないもしくは弱いスキルであったり、貴族令嬢的な習慣が、一定の環境によって生まれているものであり、この環境を、時には前世や繰り返しの知識を活用し、自ら調整していくことによって敵を倒し、困難を乗り越えていくのである。


 これらに限らず、「異世界転生もの」は現代社会において評価されない精神性や能力が異世界という環境の中で価値を持つという環境による価値転換がその冒頭に描かれるのである。この場面が様々な作品で描かれ、陳腐化しようとも、それが作品の欠点とならないのは、「弱さ」の克服に対するスタンス、つまり、身体的な強さや精神的な強さを何らかの努力によって克服することはしないことの象徴だからである。


 ただし、登場人物に精神の強さを要求しているという点で、先述の『ジョジョ』におけるラバーズの延長線上にいるものである。ラバーズが主人公の敵という位置にいる限界として闘争という観点に縛られている一方で、「ざまぁ」系は、積極的な敵味方より広い人間関係を踏まえた社会という広さを持ちえているという意味で2010年的である。しかしながら、「ざまぁ」系の中心には環境に対して自らの努力によって変化を促すという側面がある。

 だが、この個人努力という側面は、西尾が2000年代に示した個人主義からの離陸に対して、応答しきれていない。

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