第18話
◻︎◇◻︎
手紙をしたためた日から1週間、アザリアはとある部屋に招かれていた。
その部屋は豪華絢爛に飾り立てられてごてごてした品の悪い雰囲気で、中央にはこれまたごてごてした服を身につけた女が優雅にお茶を飲んでいる。
部屋の入り口でかれこれ1時間立たされているアザリアは、その様子を困ったように今にも泣きそうな演技で見つめる。
旅一座の主演女優顔負けの圧倒的演技は永遠に続く。
そろそろ壁の絵柄の数を数えるのにも飽きてきた頃、部屋の主人である王妃はふわっとぽってりと艶やかなくちびるから吐息を溢した。
その様子にまでも品のある
「———座りなさい」
胸の前で指が真っ白になってしまうほどに手を握りしめていたアザリアは、王妃の一言にほっとしたように眉尻を下げ、頬を僅かに薔薇色に染める。
その枯れかけていた薔薇の蕾がふわっと息を吹き返したかのような表情や雰囲気の動き方に、王妃は一瞬瞳を奪われる。
可哀想なほどに青白くなっていた顔にみるみると活力が蘇る様は大変美しい。
「あの、………ありがとうございます、王妃さま。このようにお話を聞いていただけるなんて思ってもいなくて………、わたくし、なんとお礼を言えばいいのか!!」
今にも感動で泣いてしまいそうな表情をしながら、アザリアは冷静な感情で王妃から情報を読み取る。
貴族の女性にしては珍しい流行りのショートカットにした丁寧なお手入れが伺えるプラチナブロンドには、複数の貴石が散りばめられたネックレス状の髪飾り。
豪奢で首がもげそうなほどに多くの宝石が取り付けられたネックレスには、宝石の王さまたるダイヤモンドが惜しげもなく散りばめられ、ベルラインの豪華絢爛なドレスは瞳に合わせたであろう見事な染地が美しいたんぽぽ色。
顔立ちはきつめで威厳に満ち溢れているのにも関わらず、いかんせん可愛らしいデザインのドレスとケバケバしいアクセサリーが似合っていないために、そこら辺に転がっているお金持ちのただのケバいおばさんにしか見えない。
(わたくしなら、この素材を活かしてもっと素敵にコーディネートできるのに………。
やっぱり、宝の持ち腐れは見ていて腹立たしいわ)
王妃の表情や空気から滲み出る人を見下し、貶め、陥れ慣れた意地悪そうな感覚を無視しながら、アザリアはあたふたと慌てるようにごくごく一般的な貴族の挨拶を高尚にしてみせる。
アザリアがしっかりとした教育を受けたご令嬢であり、親によって無理矢理第2王子の元に連れてこられた可哀想な娘であると理解してもらうために。
そんなのはただの設定であり、嘘だが、嘘と本当を織り交ぜることによって誠のことにしか聞こえなくなったアザリアの話す耳触りのいい言葉に、話に、王妃は段々と引き込まれていった。
(———そろそろ踏み込みどきかしら)
王妃がアザリアのペースに完全に巻き込まれた瞬間、アザリアは意を決したように瞳に宿す光を強めた。
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