安心できる人10



耳のヒレやギョロっとした目は泳斗くんも同じだが、泳斗くんの輪郭は人間そのものだ。それに、子供というのもあってか恐怖は微塵も感じない。


「半魚人・・・ね。わたしは見た事がないわ。あなた、そうなの?」


泳斗くんは答えない。答えないと言うより、答えられないように見える。


「なぜ黙っているの?あなた、喋れるんでしょう?」


「空舞さん。たぶん、本人もよくわかってないんじゃないですか」


「そんなことある?」


「なんとなく、そんな気が・・・ねえ泳斗くん、そこの岩に登れるかな?」


返事はないが、動きは速かった。両手で岩を掴み、ヒョイと水中から飛び上がる。その全貌が明らかになった。


「なんと・・・」


泳斗くんの身体は、薄青色という以外、普通の子供と同じだった。エラなどは無く、ツルッとした肌に小さな乳首が2つ。そして、脚と脚の間には、男の子特有のものがついている。


「泳斗くん、手見せて」


わたしが手を広げると、泳斗くんも同じように小さなを手を広げて見せた。指の間に薄いヒレのような物が見える。それは足も同じだ。


「後ろ向けるかな?」


言われた通り、クルりと背中を見せる。プリッとした可愛らしい小振りなお尻も人間そのもの ・・・人間みたい」


「というか、人間ね。顔と手足を除いては」


「泳斗くん、キミはいつからここにいるの?」


「・・・ずっと」


「他に・・・えと、お友達はいる?」


泳斗くんは首を横に振った。


──はて、どうしたものか。姿を確認するだけのつもりだったけど、まさかこんなに""意思の疎通"が出来る妖怪だったとは。

この先は、わたし1人ではどうも出来ない。


「遊里たちに報告したら?」


「そうですね」


バッグから携帯を取り出し、画面をつけた瞬間、振動と共に表示される名前。


"早坂さん"


「ギャッ」手から携帯が滑り落ち、慌ててキャッチする。

──えええ、このタイミングでかかってくる?わたしは辺りを見回した。まさか、何処かで見ていたんじゃ?


「何をキョロキョロしてるの?電話に出ないの?」


「いや、出ます」一呼吸置き、無駄にドキドキしながら通話ボタンを押した。「もしもし」


「あ、もしもし雪音ちゃん?今どこ?」


「・・・え──、外?です」


「外?あ、病院?」


「いや、えと・・・公園?」


「公園?どこの?」


「ええと・・・ここは・・・何処だ?」


「・・・何してるの?」


「・・・えと、それが・・・その・・・」

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