安心できる人8



「だからさ、名前を決めない?」


今度はパッと目を見開く。


「ボクの・・・名前?」


「そう。わたしが決めてもいいかな?」


最初は戸惑っているように見えたが、そのうちコクりと小さく頷いた。それが可愛くて、また自然と笑みが出る。


「そうだなぁ・・・何がいいかなぁ」


言ったはいいが、困った。そういうセンスは皆無なんだよな、わたし。なら、相談相手を呼ぼう。


「あのね、今からわたしの"友達"が来るけど、怖がらなくていいからね」


後ろを振り向き、「空舞さーん!」


空舞さんはものの数秒でこちらへ飛んできた。柵へ降り立つが、あの子の姿がない。


「あれっ!」


「潜ったわ」


「なんで!?おーい、ボクー、大丈夫だから出ておいで〜」


しかし、姿を見せない。


「・・・空舞さん、何かしたんじゃないですか?」


「してないわよ。何をするって言うの」


「なにか、怖がらせるようなこと」


「何もしてないわ」


少しして、ポチャリと水面が盛り上がった。さっきと同じように、目だけを出してこちらを伺っている。


「ボク!怖くないから出ておいで!この・・・鳥さんはね、空舞さんって言うの。わたしのお友達」


最初は警戒していたようだが、徐々に顔全体を見せてくれた。


「・・・鳥が喋ってる」


「そう!この鳥さんはね、喋れる鳥さんなの!」


「あなただって喋ってるじゃない」


空舞さんの言い方が威圧的だったのか、また顔を隠した。


「空舞さんっ、もっと優しく言ってくださいよ。ボク、怖くないから大丈夫だよ!優しい鳥さんだから!」


「あなた、さっきからボクって言ってるけど、この子は男なの?」


「えっ!違うんですか?」


「わたしに聞かれてもね」


「声の感じからそうかなと思ってたんですけど・・・キミ、男の子・・・だよね?」


反応がない。ということは──。


「そうだよ」


「・・・ああ、よかった」


「男じゃなかったらダメなの?」


「えっ、あ!違う違う!女の子だったら失礼だったなって!それだけ!他に意味はないよ!」


「・・・あなた、少し落ち着いたら?」


テンパっている自覚があるだけに、何も言えず──妙な沈黙に包まれた。






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