安心できる人7



「住んでるって言ったら、怒るの?」


「えっ、いや、怒らないよ!ただ聞いただけだから!」


そして、沈黙が生まれる。

待て待て、動揺するな。わたしには確認しなきゃならない事があるだろう。冷静に話をするんだ。


「ねえ、キミに名前はあるの?」


「・・・ないよ」


「そっか。人間の事は知ってるんだよね?」


「知ってるよ。だって、毎日ここにいるもん」


「そっか、そうだね。じゃあさ、その人間に・・・」その先を、どう切り出せばいいのか──正解がわからない。「人間に、何かした事とか、あるかな?」


「何か、したこと?」


「うん・・・例えば、傷つけちゃったりとか。間違えて」


「ないよ」


即答だった。これは、どっちだろう。嘘をついてる?でも、そんなふうには見えない。


「人間と話をした事はある?」


その子は首を横に振った。


「わたしが初めてって事かな」


今度は、縦に。


「そっか・・・わたしが怖い?」


少し間が空き、その子は小さく頷いた。


「どうして?」


「・・・ボクに話しかけたから」


「そっか。そうだよね。あのね、わたしはただキミと話がしたいだけなんだ。傷つけたりしないから、安心して」


わたしに向ける眼差しから、僅かに警戒の色が消えた──気がした。


「なんで話しがしたいの?」


「うーん、そうだね、キミがどーゆう子なのか知りたい。のかな」


「なんで?」


「なんでだろう・・・仲良く、なりたいのかな」


その子の耳のエラがピクっと動き、照れたように顔を伏せた。


「なんで、仲良くなりたいの?」


自然と笑いが出た。「理由が必要?」


「・・・だって、変だもん」


「変じゃないよ」


目が合い、すぐにまた俯く。

この子から感じるのは、孤独と恐怖。何を信じていいのかわからないんだろう。


わたしは柵に肘をつき、ヒョイと身を乗り出した。その子は驚いたように鼻まで身を沈めたが、またすぐに顔を出してくれた。


「わたしね、雪音って言うんだ」


「・・・ユキネ?」


「うん、わたしの名前。キミは名前が無いから、キミとしか呼べないなぁ」


妖怪とはいえ、反応は子供そのものだ。あからさまにしょぼんとする。






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