安心できる人6



池に向かって静かに叫んだ。

反応はナシ。空舞さんがいたら馬鹿にされていたに違いない。しかし、わたしはめげない。


「おーい、出ておいで〜」


変わらず、反応はナシ。


「怖くないよ。何もしないから」


──やっぱり、意味はないのかとへこみかけたその時、小さな気泡が水中から浮かび上がってくるのが見えた。


「あっ!」思わず大きな声を出してしまい、口を塞いだ。


それから見守る事、約20秒、それはゆっくりと水面から顔を出した。

正確には、顔半分だ。空舞さんの言う通り、子供だ。人間と違うのは、薄青色の肌。目は2つあるが、金色でギョロッとしている。髪は生えていない。

水面から目だけを覗かせ、ジーッとわたしを見つめている。


何か、言わなくては。怖がらせて逃げられないように。そう、怖がらせないように、だ。この子に対するわたしの恐怖は、まったくなかった。


「こんにちは。ボク、何してるの?」


お前は街中でナンパでもしてるのか?バカな発言しか出てこない自分に呆れる。

言葉が通じているのかわからないが、反応はない。


「人間の言葉、わかるかな?」


引き続き、反応はなし。微動だにせず、ただわたしを見ている。


「大丈夫、何もしないから、安心して。もし言葉が話せるなら、何か反応してくれるかな」


言葉通り、安心させるように、ゆっくり、穏やかに言った。すぐに、反応はなかった。わたしも辛抱強く待った。その甲斐あってか──その子はゆっくりと水面からその顔の全貌を露にした。


そう、普通の人間と違うのは薄青色の肌。そして、耳の部分にある魚のようなヒレ。鼻はない。口は人間と同じ場所にあるが、人間にある唇は見当たらない。


あれ──この感じ、前に何処かで見たような──。


「ボクが見えるの?」


驚いて、すぐに返事が出来なかった。周りを見るが、近くには誰もいない。という事は、今喋ったのは、この子?声は普通の子供と同じだ。


「あ・・・うん、うん。見えてるよ」


「・・・人間?」


「えっ?わたし?・・・うん、人間です」


「・・・なんで話しかけるの?」


「えっ」それに対する返事は、考えていなかった。「あの・・・あっ、キミはここに住んでるの?」


返事は返ってこなかった。わたしを見る目で、警戒しているのがわかる。



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