火傷にご用心24


車に戻りながら、気づいた事がある。

右足首、こんなに痛かったっけ?違和感は感じていたが、着地する度に鋭い痛みが走る。たぶん、最初に鬼火の攻撃を避けた時だな。

2人に気づかれないように軽くケンケン歩きをする。


しかし、前を歩いていた男はすぐに気づいた。振り返り、わたしの足元を見た。


「痛いの?」


「あー・・・若干?」


早坂さんは膝をつき、わたしのくるぶしに触れた。


「少し腫れてるわね」


「大丈夫です、ただの捻挫だと思うんで」


「まったく、痛いなら痛いって言いなさい?」


言わなくても気づかれましたけど。

早坂さんの手が伸びてきて何をしようか察したわたしは、その腕を掴んだ。


「あのっ、おんぶでお願いします」


「えー、わかった」


早坂さんが背中を向けてしゃがみ、その大きな背中に身を預けた。情けなし。


「・・・スミマセン」


「大歓迎よ」


「遊里、俺が変わるぞ」


瀬野さんがそんな事を言うのは珍しく、驚いた。


「なんでよ」


「いやお前、腕・・・」


「あーうるさい。あたしの役割り奪わないでちょうだいッ」


瀬野さんは呆れ顔で前へ進んだ。


「・・・早坂さん、もしかして、怪我してるんですか」


「してないわよ」


このしれっと感が、怪しい。


「わたし歩けるんで、降ろしてください」


早坂さんは顔半分をわたしに向けた。


「このまま抱っこに切り替えるわよ」


──これ以上、わたしに何が言えようか。


「ねえ雪音ちゃん」


「はい?」


「さっき謝ってたのは、何に対して?」


ああ──さっき、もう駄目だと思った時の──聞かれていたのか。


「2人に対してです」


「なんで?」


「・・・役に立てずに、ゴメンナサイって」


早坂さんは上を向き、はあーと息を吐いた。


「今、あたしが考えてる事わかる?」


「え?」


「あなたを檻に閉じ込めて、目を離さずずっと見ていたい」


「・・・前も言ってましたねそんなこと」


「そうね。半分冗談だったけど、今は本気でそうしたいと思ってるわ」


半分は本気だったんだ。


「檻は、勘弁してください」


「檻じゃなければいいの?」


「・・・いや、ていうか!早坂さんだってわたしの為に無茶しすぎです。さっきだってわたしに覆い被さって・・・」


「まあ、あれじゃ守れないわよね」


「そーゆう事じゃなくてっ」


「いいじゃない。あなたと一緒に燃えて死ねるなら、それはそれでアリよ」


「よく・・・ありません」そう言いながらも、内心嬉しいと思う自分がいた。


なんで、そう思うんですか?

喉まで出かかった言葉を、飲み込んだ。みんなが無事だった。今は、それだけでいい。

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