だから、それは何?11


わたしは早坂さんの視線から逃げるようにピョンとカウンターから飛び降りた。


「なんでですか?喜ぶところですよ」


そのままそこから去ろうと思ったが、早坂さんの腕に前を塞がれた。そのまま押し戻され、早坂さんはわたしを挟むようにカウンターに手を置いた。


「あ、あの・・・早坂さん?」


いつもの見上げる体制に戻ったが、近すぎて顔を上げる事が出来ない。視界は早坂さんの黒いティーシャツ。早坂さんの手が顎に添えられ、上を向かされた。

自分が今、どんな顔をしているのかわからない。逃げたくても、早坂さんの真っ直ぐな目がわたしを捉える。


「雪音ちゃん」


「・・・は、はい・・・」


「あなた・・・」


自分の心音のせいで早坂さんの声が聞きづらい。


「お肌荒れてるわよ」


「・・・・・・はい?」


「ほっぺにニキビが出来てるわ」そう言い、早坂さんはわたしを横に向かせ頬をまじまじと観察した。「不摂生してない?ちゃんと栄養ある物食べてる?」


一気に、身体の力が抜けた。

何を言うかと思えば、そこ?引き止めて、それを言う?さっきまで馬鹿みたいに緊張していた自分がアホくさくなったきた。それと同時に恥ずかしさも押し寄せる。

わたしは早坂さんの手を払い、頬を手で隠した。


「・・・寝不足と飲酒が祟ったんです。それに大人になって出来るのは、ニキビじゃなく吹き出物って言うらしいですよ」 少し、つっけんどんな言い方になってしまった。


「お酒好きなの?」


「まあ、人並みには」


「飲む?」


「・・・えっ?」


「ビールなら冷蔵庫にあるわよ。あとウイスキーと」


「飲みます」


早坂さんはプッと笑った。「早いわね」


「ウイスキーください。ロックで」


「・・・大丈夫?まあ、帰りはちゃんと送ってくけど」


「・・・あ、でもそしたら早坂さん飲めないですよね」


「あたしはいいのよ。いつも寝酒に軽く飲むくらいだから。美麗ちゃーん、あなたもウイスキー飲む?」


「えっ!」


早坂さんの呼びかけに、おばあちゃんがリビングからひょっこり顔を出した。


「飲むべ!氷はいらねぇぞ!」

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