だから、それは何?10


「雪音ちゃんは?料理するの?」


「・・・早坂さんには言いたくないんですけど」


「えっ、なんでよ」


「アレを見たら、わたしのは料理なんて言えません」


「どーゆうこと?」


「・・・いや、そのまんまです。フライパンで炒めるくらいだし」


今考えれば、手の込んだ料理なんてした事あったか?大体冷蔵庫の余り物をフライパンにぶち込んで、適当な調味料で味付けするくらいだ。料理というには程遠い。


「それだって、立派な料理じゃない。自分が美味しく食べれれば何だっていいのよ」


そんなふうに優しく言われると、そうだと思えてくる。


「・・・早坂さんて、昔から料理が好きだったんですか?」


早坂さんは最後の皿を洗い終えると、わたしの手から布巾を取り上げ自分で拭き始めた。


「遅くてスミマセン・・・」


「そーゆう意味じゃないわ。そこに座ってなさい」


「そこ?」


早坂さんは答える代わりにわたしの両脇を掴み持ち上げ、シンクの隣のカウンターに乗せた。

──なんという早業。


「あら、怒らないのね」 早坂さんは何処か面白そうだ。


「抵抗しても無駄だとわかったので・・・」


「あら、良かったわ。とりあえず第1歩ね」


──どういう意味だ。


「今でも、料理が好きかどうかわからないわ」


「え?」


「普段、自分の為に手の込んだ料理なんてしないしね。ただ、あたしが作ったご飯を誰かが幸せそうに食べるのを見るのが好きなのよ」今はわたしの方が目線が上だから、早坂さんの睫毛の長さが際立つ。「さっきのあなたのようにね」笑顔を向けられ、心臓がギュッとなった。


「それは、やっぱり好きって事ですかね」


「うーん、そうねえ。まあ、好きな方ではあるんだと思うわ」


「あはは、なんなんですかその曖昧な言葉は」


ふと、思った。ここでわたしが、"じゃあわたしの事は好きですか?"と聞いたら、どんな顔をするだろう。さっきみたいに困った顔を見せるだろうか。


早坂さんに見つめられて、自分が見つめていた事に気づいた。


「わたしは好きですよ」


「え?」


そのまま、目を見つめた。「好きです」


早坂さんも目を逸らさない。


「好きです。早坂さんの・・・料理!」


ニコリと笑って見せた。

早坂さんはキョトンとすると、気が抜けたように笑った。


「なんだか、嬉しいのか嬉しくないのかわからないわね・・・」

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