救世主3


おばあちゃんは、目にかかるわたしの前髪を横に撫でつけた。


「せっかく美人なんだ、あんまり痩せてはみっともないぞ」


「えー、わたしこう見えて、標準体重だけど?」本当は、しばらく体重なんて計っていない。ただ、ズボンが少し緩くなったのは事実だ。


「ちょっと待て、小遣いやるから・・・」


「あー!そろそろお風呂に入んなきゃ!」立ち上がろうとするおばあちゃんの肩に手を置き、自分が立ち上がる。


「いいから、貰っておけ」


「この前貰ったばっかりでしょ」


「だいぶ前だろう。お前が受け取らないから」


「受け取らないとは言ってないよ?たまに貰うから、ありがたみがあ・る・の」


おばあちゃんはやれやれといったように息をついた。「お前も頑固だからな」


「ふふ、いつもありがとう。おばあちゃん」






──それから1ヶ月後。

季節が春からから初夏へと変わる頃、おばあちゃんは亡くなった。

朝は誰よりも早いおばあちゃんが、起きてこなかった。最初に発見したのは叔父だった。

おばあちゃんは、布団で眠るように亡くなっていた。


わたしは、涙が出なかった。状況が理解出来なかった。だって、昨日まであんなに元気だったのに。いつものように、バイトから帰ったわたしに、ご苦労さんと声をかけてくれたのに。


なんで、突然いなくなるの。


おばあちゃんがいなくなってからも、わたしは毎日、おばあちゃんの部屋に行っていた。

何をするわけでもない。ただ、おばあちゃんの座椅子の隣に座ると、そこにおばあちゃんがいるような気がしたんだ。



おばあちゃんが亡くなってから2週間後、バイトから帰宅したわたしがおばあちゃんの部屋に居ると、襖が開き、叔父が顔を出した。


「雪音、ちょっといいか」


「うん?」


伯父は手に持っていた物をわたしに差し出した。茶封筒だ。


「おばあちゃんのタンスから見つかってな。お前宛てだ」


「え・・・」


封筒には、達筆な字で"雪音へ"と一言。裏には何も書いておらず、しっかりと封がしてある。

叔父はそれ以上何も言わず、静かに部屋を出て行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る