優秀な偵察者21


2人はこちらの事など気にも止めず、車へ向かっている。


「空舞さーん!?」


早坂さんは子供を抱き直すように一瞬わたしを宙に浮かせ、また腕に乗せた。


「暴れると落ちるわよ」

いや、それが望みなんだが。

「お姫様抱っこに切り替えてもいいのよ?」


悪魔の笑みだ。それだけは勘弁だったので、抵抗するのをやめる。


「・・・早坂さん」


「ん?」


「いつも、助けてくれてありがとうございます」


早坂さんはキョトンとした。「何が?」


「いろんな、意味で・・・です」


「あたしは何もしてないわよ」


いや、助けられてばかりだ。早坂さんがいてくれて良かった。心からそう思う。


「・・・この距離で見つめられたら、何するかわからないわよ」


早坂さんの顔がマジになり、動揺して目を逸らした。何するかって、何をするつもりなんだ。


車まで到着すると、早坂さんはわたしを降ろす前にぎゅうっと抱きしめた。抱きしめられるのは初めてじゃないが、いつもと違ったのは、首筋に早坂さんの唇が押し付けられたこと。

反応はしなかったが、心臓が爆音を上げ、身体が燃え上がりそうだった。


早坂さんは解放したわたしの頭に、ポンと手を乗せた。


「さ、帰りましょうか」


「・・・あい」


──いやいやいや、今のは何だったんだ。

首筋にキス、したよね。あれは絶対唇だった。

触れられた所が熱を持っている。



「雪音」


「ギャッ!!」


気づいたら、空舞さんが肩にいた。


「あなた大丈夫?変な顔してるわよ」


変な顔って。「大丈夫です。ちょっと、疲れました」いや、本当、いろんな意味で。


「あなた、顧みずなところがあるわね。でも、ありがとう。わたしの為に動いてくれたのはわかってるわ」


空舞さんも、なかなかツンデレだよな。まあ、それが空舞さんらしくて可愛いんだけど。


「こちらこそ、ありがとうです。空舞さんがいなかったらどうなってたか」


「そんなことないわ。あなた達、良いチームワークね。じゃあ、また」


「えっ」空舞さんが、わたしの肩から飛び立った。いつも行動が早いな。「空舞さん!またっ!」


空舞さんは応えるように1度旋回し、闇夜に消えていった。



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