優秀な偵察者20


「お仕置きって・・・降ろしてくださいっ」


「嫌よ、このまま車まで行くわ」


瀬野さんと目が合い、呆れたようにこちらを見ている。死ぬほど恥ずかしいですけど。


「ふぬぬぬぬ」もがいて降りようとするが、ビクともしない。


「抵抗しても無駄よ。諦めなさい」


悪者のセリフだ。「謝るから・・・降ろしてください」


早坂さんはわたしを見上げた。距離が近すぎて、目を見れない。


「まったく、毎回毎回突っ走るんだから。でも、謝らなくていいわ」


「えっ?」


「あなたを心配するのは、あたしの勝手だから。あなたが自分の判断で行動した事を咎める権利はないわ。実際、咎めるどころか褒められる事しかしてないしね」


「・・・どうしたんですか、急に」今まで、散々と言われてきたのだが。


「あなたの能力は認めてるのよ。あたしがいる事でそれを制御させているなら、それは本意じゃない」早坂さんの顔は、真剣だ。「まあ、あたしがいようがいまいが、あなたは暴走するけどね」


「・・・それは、わたしを対等に見てくれてるって事ですか」


早坂さんは怪訝な顔でわたしを見た。「対等って、何を基準に?あなたは最初から誰より優秀じゃない」


──不覚にも、泣きそうになった。

早坂さんから認められた事が、こんなにも嬉しい。可愛いとか綺麗とか、そんな言葉より何百倍も嬉しいんだ。


「雪音ちゃん?大丈夫?どこか痛む?」


「・・・いえ・・・あの、じゃあ、降ろしてもらっていいですか」


「なんで?」


「なんでって、認めてくれたなら、お仕置きは必要ないんじゃ」


早坂さんは、まるで天使のように微笑んだ。

「それはそれよ。この先も、あなたが暴走したらお仕置きし続けるわ」


天使の皮を被った悪魔だった。「言ってること支離滅裂ですけど!認めてるならお仕置きする必要ないじゃないですか!」


「だから、それとこれとは別よ。あたしの楽しみは奪わせないわ」


いや、ホントに楽しんでる、この人。「そもそも、何なんですかこのお仕置きは!」


「あなた嫌がるから、お仕置きでしょ」


「・・・空舞さん!助けて!・・・あれ?」気づけば、肩にいたはずの空舞さんが瀬野さんの肩へ移動している。

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