優秀な偵察者19


──ヤバイ。また来る。


その時、わたしの目に、2つの事が見えた。


わたしを抱き上げた早坂さんが、ギリギリのところで糸を避ける。

瀬野さんが、蛾に向かってナイフを投げる。


初めて聞く"音"だった。ナイフがお腹に命中した蛾の悲鳴だ。声というより、地鳴りのような轟音。羽の動きが止まり、蛾は地面に脚をついた。


そして、また2つの事が同時に視界に入ってきた。

空から向かってくる空舞さん。地上から向かう瀬野さん。2人はほぼ同時に、ターゲットの頭にナイフを突き刺した。


蛾はピクリとも動かない。そして頭から徐々に白くなり、塵と化していく。

見るのはこれで3度目だが、神秘とも言えるこの光景に思わず見入ってしまう。そのうち慣れる日が来るんだろうか。


早坂さんが、わたしを降ろした。足についた糸をナイフで切ると、蛾同様、塵となって消えた。


「ありがとうございます」


スッと立ち上がった早坂さんは、無言でわたしを見下ろした。──あ、まずい。


「また、やってくれたわね」


「いや、それが、また勝手に足が・・・あっ、そうだ、靴」逃げるように靴を取りに行く。


「ほれ、まさか靴を投げるとは思わなかったが。よくやった」瀬野さんが拾って、渡してくれた。


「瀬野さんも、ナイスです。空舞さんも」


空舞さんはナイフを咥えたまま瀬野さんの肩に乗っている。


「空舞さん、危ないから返してください」


「まだ残ってるわ」


「え?」


それだけ言うと、空舞さんは校舎の方へ飛んでいった。


「ん?屋上?」


「そういえば、繭があるって言ってたよな」


「・・・あっ」


空舞さんは、すぐに戻ってきた。わたしの肩に降り立つ。


「返すわ」


「あ、はい」慎重に、空舞さんの口から受け取る。


「あそこにあった繭も始末してきたわ。これでもう問題ないわよね?」


「ああ、よくやった」


空舞さんの体に触れた。「ナイスです空舞さん」


「あなた達もね」


──あとは・・・後ろの人だけだ。さっきから何も喋らないのが、怖い。振り返る勇気もない。


「財前さんへの報告は帰ってから俺がしておく。さて、ずらかるか」


「ほい」恐る恐る後ろを振り返る。「早坂さん、帰りま・・・」驚いた。早坂さんの身体が、目と鼻の先にあった。


そして、「ギャッ!」早坂さんは、わたしを抱き上げた。子供を抱っこするように。「ちょっ、何ですか!」


「お仕置きよ」



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