優秀な偵察者16
「あなた達」
「ギャ──!!」
「・・・近距離でそれはやめてちょうだい」
いつの間にか、空舞さんがわたしの肩にいた。「どこに行ってたんですか?」
「あいつをおびき寄せたのよ。根城は屋上みたいね。大きな繭があったわ。あなた達、あれに触れたら駄目よ」
「あれ?」
「あいつの羽から出る鱗粉よ。あれは人間には毒だわ」
確かに、飛んでいる蛾の羽から光る粉のような物が落ちている。それだけ見ると、とても幻想的だ。
「子供達の病気はアレが原因ってわけね。雪音ちゃん、あいつの下に行っちゃダメよ」
「は、はいっ」
「しかしどうする。動きは鈍いが、降りてこない事にはどうも出来んぞ。その前に、俺らが見えてるのか?」
蛾は、大きな羽をゆっくりと上下に動かしながら空中でホバリングしている。
「近くで見た時、左目に傷があったわ。おそらく見えていないわね」確かに、わたし達は今、蛾の左側にいる。「あの触覚で匂いと音を感知してるのよ」
また鳥肌が立った。細い歯が並んだ櫛のような触覚もバカみたいに大きい。やはりあの繊細さが、わたしは苦手だ。
「見えていないのは、ラッキーね」
「だとしても、あいつに届かない事には意味がないぞ」
「あなた達、あれをどうやって殺すの?」
早坂さんが背中からナイフを取り出し、空舞さんに見せた。「これでブサっとよ」
「・・・投げたら、どうですかね?」
「うーん、おそらく弱点は頭だから、狙うのは難しいわね。別の所を攻撃して怯ませる事は出来るかも」
「羽を狙えば、怯んで降りてくるんじゃないか」
「やってみる価値はありそうね。どっちが投げる?」
「ダーツはお前のほうが上手いだろ。お前がやれ」
「そこ関係あるかしら。まあ、わかったわ。雪音ちゃん、あなたはここにいなさいね」
「・・・わかりました」
早坂さんと瀬野さんが、ゆっくりと近づいていく。厄介なのは、あの鱗粉だ。触れないギリギリの所まで進むと、早坂さんはナイフを投げるように持ち直した。
そして、さあいくぞとナイフを振りかぶったところで、蛾の触覚がピクリと動く。
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