対峙10


「楽しかったけど、ビックリするんで、もうやらないでください」


早坂さんは眉を上げて笑った。「わかった。忘れた頃にやるわ」


「いえ、2度とやらないでください」


「あなたが怒らない限りやるわ」


「・・・怒ってるって言いましたけど」


「そお?」


「・・・乗るんで、鍵を開けてください」


早坂さんは笑いながら助手席のドアを開けた。

「はい、どーぞ」


「1人で開けれますけど」


わたしが乗るまで動かないのはわかっている。グリップに手を掛けようとしたその時、「どわっ!」またもや身体が宙に浮いた。そのまま、ポスンとシートに下ろされる。


「さっ、行きましょうか」


わたしが講義する前に早坂さんはドアを閉め、運転席へ回った。

今度はお姫様抱っこか。また、父さんを思い出した。子供の頃、父さんが乗っていた車も車高が高く、いつもこんな風に抱っこして乗せてもらっていた。


運転席に着いた早坂さんは、しれっとエンジンをかけ、車を走らせた。



「・・・無言が怖いわね」


「怒ってるアピールです」


「ふふ、口でアピールしちゃうのね。でも、元気出たみたいで良かったわ」


「え?」


「明日、無理に行くことないのよ?」


「・・・わかりましたか」


「あなたはわかりやすいもの」


自覚があるだけに、何も言えない。「あそこには、何年も行ってなくて。ずっと避けていた場所だから・・・正直ちょっと怖いと思いました。あ、公園の話ではないですよ」


「ええ」


「・・・でも、行かないのも嫌なので」そうしたら、後から後悔するのはわかっている。


「あたしはあなたの意思を尊重するわ。後悔のないようにしなさい。もし後悔しても、あたしがついてるわ」


── 不覚にも、少し泣きそうになった。

この人は、いつもわたしを見抜き、それでいて何も聞かず、いつの間にか安心させる。


「ありがとうです・・・早坂さんって、お父さんみたい」


ゴツンと鈍い音がした。早坂さんの頭が窓に当たっている。


「大丈夫ですか・・・?」


「大丈夫じゃないと思う。お父さんね・・・」


「わたしが言いたいのは、安心できるって意味です。早坂さんがそばにいると」

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