対峙3


鏡に映る自分を見て、思った事がある。

わたし、いつも同じ服装じゃないか?

Tシャツにパンツ。そりゃあ、デザインとか素材は違うけれど、形としては変わっていない。

スカートとか、ワンピース、持ってたっけ。

クローゼットを漁る程の衣類が無いのはわかっているが、駄目元で探してみる。

数秒で決着がついた。そんな物は、存在しない。見るからに、動きやすさ重視の物ばかりだ。


いや、別に、オシャレをする必要はないんだけど?自分の女子力の低さに少し、悲しくなっただけだ。

無駄な足掻きはやめて、白いTシャツと黒いジョガーパンツに着替える。これに白いスニーカーだ。そう、わたしはこれからも動きやすさ重視で生きていく。



7時50分に部屋を出て階段を下りると、ちょうど早坂さんの車が向かってくるのが見えた。

わたしの目の前で停まり、助手席のドアを開けて、思わず目を見張った。


「雪音ちゃん?どうしたの?」


「なんで、スーツなんですか?」


早坂さんが自分を見る。「ああ、知り合いのお通屋に行ってきたところなのよ。着替える時間なかったからこのまま来ちゃったわ。さ、乗って」


「・・・あい」


黒いスーツに黒いネクタイ。普段、ラフな格好の早坂さんしか見たことがないから、新鮮すぎて緊張する。


早坂さんが笑いながらわたしの頬を小突いた。「なに?なんかよそよそしいわね」


「スーツ、似合いますね」


「そお?ありがと」余裕な笑み(に見える)。


「なんか、ムカつく・・・」


「ええ!?なんでよ!」


「似合いすぎて」それに比べて、わたしはこんな見窄らしい、女子力皆無な身なり。「自分の貧相さが際立ちますね・・・」


「あら、あたしは、あなたのその気取らないカジュアルさ好きよ」


──好きよ。服装がね。


「どうも」


「それに、あなたは何を着たって隠しきれない可愛さが滲み出るから」


「どうも」納得してるのは、言った本人だけだ。


「ご飯は食べた?」


「はい、パン食べました」


「・・・パンって、もう少しちゃんとした物食べなさいよ」


「昼間の残りだったんです。明日まで残しとくのもなあって思って」河原でカレーパンとビールを頂いた事は黙っておこう。







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