天然記念物につき9


ふと、浮かんだのは──・・・携帯を取り出し、着信履歴を開く。

電話したところで、なんて言えば?誰かにつけられてるんで、助けてください?突然そんな事言われても、困るよね・・・。


やっぱやめた。携帯の画面をオフにした瞬間、鳴る着信音。驚いて手から滑り落ちそうになる。

──えっ!わたし、間違ってかけてないよね。


「も、もしもし」


「あ、雪音ちゃん?お疲れ様。今家かしら?」


早坂さんの声を聞いた途端、身体の力が抜けた気がした。


「・・・雪音ちゃん?」


「あ、すみません。今コンビニです」


「・・・1人で?」


「はい」


「この時間に?」


「仕事帰りなんで」


「あら、じゃあこれから電車とか?時間的に大丈夫?」


「いえ、歩いて帰ったので、家の近くのコンビニです」


「・・・歩いてって、あなた、今何時だと思ってるの?」


出た、過保護モード。「いつもこんな感じですよ。今日はちょっと、後悔してますが・・・」


「後悔?どーゆうこと?」


返しが早いし、自然と話す流れになってしまった。「なんか、後つけられちゃって」


「・・・どーゆうこと?」早坂さんの声が低くなる。


「いや、なんか、店出てから男の人につけられてるみたいで、今コンビニに逃げ込んだところです」


「警察には?」さらに低くなる。


「ついてくるだけで、何かされたわけでもないので、どうなのかなって」


電話の先から、重い溜め息が聞こえた。「そーゆう時はすぐに警察に連絡するのよ。その男は今何処にいるの?」口調でわかるのは、怒っているということだ。


「外の電柱の所に・・・」携帯とこちらを交互に見ている。


「警察が来たら逃げられる可能性もあるわね」呟き声だった。「その男の服装は?」


「え?あ、白いキャップに、たぶんグレーっぽいシャツです」


「その家の近くのコンビニって、最初に会った時、あなたが寄ったコンビニよね?」


「え・・・はい」そこから見られてたのか。


「待ってて。絶対、外に出ちゃダメよ。いいわね」


わたしが返事をする前に、電話が切れた。

待っててって、何を──?どっちにしろ、身動きが取れない。手に取った雑誌が60歳からの生き方という題名だろうが関係ない。迷惑な客になってやるんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る