困惑5


「ちょっと・・・泣いてるの?どうしたの!?」


「未来ちゃんが・・・」


未来ちゃんのお母さんは、わたしが持っているハンカチを見ると、みるみると顔が蒼くなった。私の腕をグッと掴む。


「未来に、何があったの?」


「ジャングルジムから落ちて・・・血が出て・・・」


「どこから血が出てるの?」


「あたま・・・」


未来ちゃんのお母さんの行動は早かった。テーブルから携帯を取り、そのまま玄関へと走る。


「あっ、待って!これっ・・・」おじさんから頼まれた紙を渡そうと追いかけるが、もう家を出ていた。わたしも後を追いかける。


玄関前の段差で1度派手に転んだが、痛みは感じなかった。すぐ立ち上がり、走った。



公園に着くと、入り口に救急車が停まっていた。未来ちゃんの周りを数名の救急隊員が囲んでいるのが見える。

わたしが近づくと、さっきのおじさんに肩を掴まれた。


「大丈夫だよ、今診てもらってるから。ここで待とう」


その様子を、未来ちゃんのお母さんが隊員の後ろから心配そうに見ている。


しばらくして、未来ちゃんはタンカーに乗せられた。頭には包帯が巻かれ、もう泣き止んでいる。ゆっくりと、救急車へ運ばれていった。


未来ちゃんのお母さんはおじさんの元へ来ると、何度も何度も頭を下げて、お礼を言っていた。


「雪音ちゃん、あなたはお家に帰りなさい。いいわね?」


わたしは、頷くしか出来なかった。


サイレントと共に去っていく救急車を、見えなくなるまで目で追いかけた。



頭に何かが触れ、見上げると、おじさんがわたしに微笑んでいた。「大丈夫だよ。おじさんの友達はね、子供の頃、もっといっぱい血が出たんだけど、ちゃんと元気になったから。キミの友達も元気になるよ」


その言葉を聞いて、凄く安心した。


「それより・・・」そう言うと、おじさんはわたしの手からハンカチを抜き取り、近くの水道へ向かう。戻ってくると、濡れたハンカチでわたしの手を拭いてくれた。そして、ある事に気づく。「膝から血が出てる。転んだのかい?」


「あっ・・・」必死で、忘れていた。傷を見て、今更痛みが湧いてくる。


おじさんはそのハンカチを傷のところに優しく巻いてくれた。「キミは勇敢な子だね。このまま帰りなさい」



言葉の意味はわからなかったけど、おじさんの優しい笑顔に、ちょっと泣きそうになった。「・・・ありがとう」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る