フーアーユー?



 高校生になって最初のテスト後の教室の居心地は、最悪以外の何ものでもなかった。部活だー、とわざわざ声を大にして挙げている奴。一緒に勉強してたとこ出たねー、と群れではしゃぐ奴ら。


「やっと終わったねー」


 テストの時だけ隣の席になる優等生女子が、とりあえずといった感じで今日も話しかけてくる。


「明日から文化祭の準備が始まるね!」


 そうだね、としっかり興味がないことをアピールして、この空間を後にする。楽しみだね、と考え無しに言わなかったことだけは、プラス評価しておこう。




 部活に所属していない自分は、否応無しにその準備に駆り出される。まだ数日も経っていないのに、早くもクラス内では諍いや分断が起こっていた。


「何やってるのー?」


 例の優等生が目の前に立っている。独りで作業していたから、とりあえず声をかけたといったところか。


「装飾づくり」

「今日部活休みだからさ、手伝わせてよ」


 教室の角の席の陣地が少し広がる。わざわざ前の席の向きを変えて、自分の正面を位置取ってきた。


「あっちを収めてきてよ」

「私は、あぁいう揉め事を止められるような人じゃないので」


 君以外適任はいないだろ。そう言うよりも早く、折り紙に手をつけられてしまった。

 この状況は客観的に見てどうだろう。クラスで美女四天王とか言われている一人が、超絶陰キャを相手にしているわけで。


「質問があります」

「……なに」

「あなたはどんな人ですか?」

「は?」


 意味がわからん。少なくとも、頭のいい人がするような質問とは思えない。


「いつも周りを観察していて、みんなが収まらないようなポジションにいるからすごいなーって思って。合ってる? 私なんか、全然自分のクラスの立ち位置わからないもん」


 それは、聞き方を変えればディスりと受け取られることをこの人は知らないんだろう。おまけに、それは話をせず観察した内容だろうに。


「——何やってんの?」

「私? 折り紙を切って輪っかをたくさん作ってる」

「チェーンリングなんだから、繋げないと意味ないでしょ」


 うわーそうじゃん、と大袈裟に慌て出す。そうだ、この人天然だった。


「みんなには、この共同作業のこと秘密にしてね」


 きっと自分から言う訳がないと、わかっているのだろう。ただ、その言い方と周囲の視線には注意してほしかった。


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