phase04 これもデート?ドタバタ劇のようなもの

第36話 ある意味いつもの光景

「ちょっとぉ、何でこの日に休みが取れないんですか?」

「だからしょうがないでしょ、この日は中村さんが人間ドックに行く日なんだから」

「折角、滅多に取れないライブのチケットに当選したのに。変更してもらえないんですか?」

「馬鹿言うな、もう中村さんの人間ドックは半年も前に決まっていたんだぞ」


 今日も安藤さんとポンタさんこと権田課長が言い争いをしている。まぁいつもの事ではあるけれども。

「あの二人、よく飽きないですね。毎度毎度、よく言い争うネタがあるなと」

「『アンポンタンの争い』とはよく言ったもんだな。」

 冬馬と石塚さんは半ば呆れて、安藤さんとポンタさんの言い争いを見守っていた。

 誰が言い始めたのか、『アンポンタンの争い』。座布団1枚上げたいくらいだ。

 まあ何というか、今日も平和だ。



「折角、ライブの抽選に当たったのに行けないなんて、ひどいと思いません?」

 昼休み、食堂でいつもの給食を食べ終わった頃に、安藤さんに捕まった。あ~あ、

 これで残りの昼休みの時間は終わったな……。


「大体、その日にちゃんと休みが取れそうか、確認しなかったのが悪い。同じ様な事、これで何回目だ?」

「だって平日だよ、休み取れると思うじゃないですか?」

「出張とか会議とかあったりするんだから、確認しないとダメだよ」

 ポンタさんと言い争いがあった後は、大抵、冬馬の所で愚痴を言いに行く安藤さんであった。ちゃんと話を聞いてくれるのが、冬馬ぐらいしかいないからだが。


「しょうがない、夏子さんにも話聞いてもらうか……」

「頼むから夏子に迷惑かけるなよ。っていうか、職場で夏子の名前出すのは極力控えてくれよ。誰が聞いているのかわからないから」

「は~い、わかりました~」

 安藤さんは言いたい事がありそうだったが、まぁ何とか退散してくれた。もっとも、昼休みは殆ど終わってしまったが。


(ふぅ、やっと解放された~。でも、もう午後の仕事始まるのか~)

 そんな思いをよそに時間は進んでいくのであった。



「安藤さんの愚痴、終わったか?」

「はい、何とか」

 冬馬は仕事をしながら、石塚さんと話をしていた。

「それにしても、安藤さんとポンタさんってよく言い争いしてますよね」

「そうだな。あの二人は、夫婦漫才やってるからな」

「どんな夫婦漫才だよって言いたくなりますね」

「あんな感じで、二人の掛け合いがあるんだよ」

「なるほど、確かに言い争いしているときは夫婦漫才っぽいです。夫婦漫才……」

「職場の人間関係も、夫婦漫才で上手くいくようになればいいんだけどなぁ」

「ははっ、確かにそうですね」


 冬馬は笑って答えたが、石塚さんは真面目な表情をしていた。

(石塚さん……、何か考え事しているのかな?)

 冬馬は、石塚さんの表情から何かを読み取っていた。

(いや、流石にそれは考え過ぎかな?)

 でも、それがきっかけになったのか、石塚さんは口を開いた。


「北野 、ちょっといいか?」

「何ですか?」

(やっぱり、何か考え事していたんだ)

 石塚さんは真面目な表情で冬馬の事を見つめている。二人は少しばかり席を外して移動した。



「お前さ……、安藤さんとの仲は進展しているのか?実はもう、ヤル事はやったとか?」

(えっ!?えええーーー!!いきなりですかっ!!)

 冬馬は石塚さんに、こんな突っ込みをされるとは思ってもみなかった。性格からして、石塚さんは、こんな事を話すようなキャラではないと思っていたので。


「安藤さんとは、そんな関係じゃないですよ~」

 てっきり、夏子の事がバレたと思っていた。別に変な表情とか出てないよね?大丈夫なはずだけど。でも、夏子との事まで知られてたら……。冬馬は、何を言われるのか、ドキドキしている。

「いや、別にいいんだ。俺が気になってるだけだから……。すまん」

 石塚さんの言葉は歯切れが悪い感じがした。もしかして何か気付いていたとか?

「あの、石塚さんはその……、俺が……」

 どう答えるといいのか迷っていると、どこからか悲鳴が聞こえてきた。



「北野さ~ん、助けてください~。安藤さんがポンタさんと揉めちゃって~!」

「今度は何やったんだよ?」


 また安藤さんがちょっとしたミスをして、ポンタさんが必要以上にネチネチ説教したらしい。それなのに安藤さんが下手に口答えして話がこじれてしまったと。

 全く、しょうがないなぁ……。冬馬は、またかよ?という様な表情をしている。


「石塚さん、すみません。ちょっと行ってきます」

「あ、あぁ……。行ってらっしゃい……」

「石塚さん、さっきは何か言いかけました?」

「いや、何でもない。大丈夫だ」


 本来なら、冬馬の上司の石塚さんが仲裁すべきなのだけれど、石塚さんは押しが弱い部分があり、その手の事は苦手としているので、代わりに冬馬が仲裁する事が多い。

 特に安藤さん関係は、冬馬の出番が相場となっている。結局のこの日も、冬馬は安藤さんを宥めて、何とかその場を収めていた。安藤さんのミスは、冬馬が何とかする形で収まったわけだ。それにしても、ポンタさんは課長なんだから、そんなにムキにならなくてもいいのにと、冬馬は密かに思っていた。


(それにしても石塚さん、何を言いたかったんだろう?)

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