第16話 ちょっとおかしい感じがする
翌朝、冬馬はいつも通り朝食を済ませて出勤する。 今日は夏子と会えるんだ。昨日みたいな事はないようにしたかった。だから気分を引き締める為に少し早めの時間に家を出た。しかしながら失敗したと思ったのが、いつもより早い時間の方が道路が混雑していたからだった。結局、いつもの出勤時間と大差がなかったりしていた。始まりがこんな感じだと、もしかしたら今日は忙しい日々になるかもしれない、そんな予感もしていた。
気持ちを切り替えて、冬馬は仕事に没頭する。流石に昨日みたいな浮ついたような気持にならないように心がけた。夏子の事を考えだしたら、仕事にならない事になるのはわかっていたので。そういえば、今日は業者の人と防犯設備の一斉点検に関しての打ち合わせもあったなぁと。流石に恥ずかしい所は見せられないので、気を引き締めないといけないと思ってみたり。あちこち見て回ったからか、意外な程に時間がかかってしまった。実際の点検はまだ先だけど、点検の日は大変そうだ。
結構、時間がかかる案件があったおかげか、あっという間に昼休みとなってしまった。忙しかったおかげか、夏子の事は考えずにすんでいた。しかしながら、未だに夏子からの連絡はなかった。夏子の事だから、しつこいぐらいに連絡をしてくると思っていたのに、ちょっと意外だ。
(もしかして何かあったのかな? )
どうにも気になってしまい、いつもの給食を食べてから、◯インでメッセージを送ってみた。 しかしながら既読も付かず、当然、彼女からは返信がなかった。
(まさか事件に巻き込まれているとかじゃないよね? )
昼休みが終わる頃になっても、夏子からの返信はなかった。既読すら付いていない。どうにも気になってしまった。午前中は気になっていなかった夏子の事だが、午後以降は気になって仕方なかった。これでは本末転倒ではないかと。危うくポンタさんに捕まって、いらない事をクドクド言われそうになったので、適当な理由を付けて逃げ出してしまった。何やってるんだろう……。
結局、夏子からの連絡はないまま、終業の時間となってしまった。刻一刻と約束の時間は近づいているのに、今日はどうなるのだろうか?
(夏子は大丈夫かな?)
次第に冬馬の心配が大きくなっていく。
(とりあえず、一度電話してみよう)
気になって仕方のない冬馬は、帰宅した後、スマホをとって夏子に電話しようかと試みる。そして、そのタイミングでスマホから通知音が聞こえてきた。
(もしかして)
急いで画面を見ると夏子からのメッセージだった。よかった、何かに巻き込まれていたわけじゃなかったんだ。しかしそこに書かれていたのは思っていたものとは少し違った内容だった……。
夏子:「会いたい」
何というか、思い詰めたような感じがする。どう考えても、あの元気な夏子のイメージが思い浮かばない。違和感をひしひしと感じさせる。
(やっぱり変だよなぁ)
冬馬:「何かあった?」
しかしながら、それ以降は、やり取りが続かない。もしかして移動中なのだろうか?
返答もないので、もう一度、入力をしようとすると、インターホンが鳴ったのが聞こえてきた。 急いでモニターを確認してみると……、
そこには彼女がいた!会いたいと思っていた夏子がいた!
しかしながらドアを開けたその先に見えた夏子は、どうにも神妙な顔つきをしている。そして目に入ったのは大きなキャリーバッグだった。
「お願い、暫く泊めてちょうだい」
「一体……、どうして……?」
「訳は後で話すから……。ごめんね、迷惑かけて……。お願いだから……、ね?」
「……わかった」
冬馬は夏子を寝屋に招き入れたのだった。
それから暫くは沈黙が続いた。 夏子は俯いたままでいて表情が見えないが、何か思い詰めているようだった。二人は何を話していいかわからずに時間が過ぎていくだけだった……。
そして数分後、夏子が顔を上げたかと思うと思いがけない言葉を告げられた。
「ねぇ、抱いてほしいの……」
「え?」
冬馬は驚いたが、夏子の表情は真剣だった。 そして彼女は、
「夏子、前にも言った通り、結婚前にそういった行為はしたくない。ましてや今の夏子はやけっぱちで見ていられない。話は聞くから、何があったか教えてほしいな」
「冬馬くん……、私ね……」
夏子からは、我慢していた涙があった溢れだし、そのまま冬馬に抱きついていった。冬馬は、それを受け入れていく。暫くの間、夏子は涙を流し続けていた。
「ねぇ冬馬くん……」
ようやく落ち着いたのか、夏子が冬馬をじっと見つめていた。でも その声は、少し震えていたように思えていた。
「一体どうしたんだ?」
冬馬が尋ねると、夏子はゆっくりと話し始めた……。
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