第69話問迷鏡

「鏡が透明になるまで問答してご覧。それで答えを見いだす者もいるし、曇ったままの鏡を前に、力尽きる者もいる。運が良ければ私に願いを叶えてもらったものもいたわ。どれにしても、最後はあなたがこのアトリエの敷地から出て行くだけ。自分の足ででていくか、歩けないあなたを私が放り出すかの違いはあるけれど。」

黒い曇りの奥からミスティが言う。

ラビィはくすりとミスティの言葉に笑って、鏡に向き合った。

「ぼくに迷いはない。あるのは手錠が外れないって言う悩みだけ。」

すると霞っぽい声で鏡が言う。

「あなたは迷っている。そのために。さまよっている。」

「さまよっているんじゃない。旅をしている。目的はあったりなかったりするけれど、どれもなにかしらかたちになった思い出になるんだ。」

「あなたは銃を使う。だから迷わないというのは違う。ためらわないということでしょう。」

「ぼくは銃を使う。ためらわないことは精密な判断の上に成り立つ迷わないこと。それがあるからぼくは迷うときがあっても判断して解決することをあきらめない。」

「あなたは・・・。」

黒曇りの鏡がひらりと光ったかとおもうと、そこにはアクアマリンブルーに金箔が散ったような色が映っていた。

「すがすがしい心根に、光る強さ、あなたのハート・・・」

ミスティがドアの向こうで思わずわあっと声をあげる。

「なんて美しい色、問迷鏡は透明にならずに色を映すことなんてほとんどないの、皆迷って自分の色を失ってにごっているのをいったんクリアにする鏡だから。だからあなたには迷いがない、その証拠ね。この色欲しいわあ、あなたの心が欲しいわあ。」

(魔女は好きになったものはどうやってでも欲しがる)

ラビィはあわてず言った。

「ミスミスティ、あなたは言ってたよ。ぼくがどうなるにしろ最後はぼくがこのアトリエの敷地から出て行くだけだって。

(魔女は嘘をもてあそぶ、真実には真摯、魔女自身二言を言うことはない)

二言はない魔女の言葉。そうだよね?」

魔女がふうっと息をつく。

「参った、参った、参ったわ。あなたの勝ち。魔女は嘘をもてあそぶ、真実には真摯、魔女自身二言を言うことはない・・・ね。正確には、魔女の口は呪文の口、へたなことを言うと魔法が起きてしまうから、嘘から出た誠になってしまうことを避けるために会話には気をつけるの。じゃああなたが出て行く前に、ちょっと興味がわいたから、あなたの願いとやら、話しを聞くだけ聞いてあげる。」

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