第68話ミスティ
3本のかかしをようやく言いかわして、くねくねの庭道を進んだ先のモスグリーンの一軒家にやっとたどりついた。
魔女の家らしいような装飾や道具など特に見当たらなくて、おどろおどろしさはない。
ただ、一軒家の入り口であろう長方形のドアに、フェイスミラー大の女性のカメオがはまっているだけだった。
一方の横の髪をみつあみにしてそれでぐるりとターバンのように頭を巻いて、黒く長いきらきら光る髪をまとめている女性の横顔だ。けだるげな表情で、長いまつげの目はおぼろげに少しだけひらかれている。白磁の肌、くちびるはシルバーブルーだ。
(魔女の扉のノックは1回で充分。魔女は感覚が過敏であるから数回叩くのはうるさがれる。)
ラビィがドアを1回ノックする。
「かかしを言いくるめてきたわね。それにノックは1回。まったく最近こういうのが多くて困るわ。」
カメオのシルバーブルーのくちびるが動いた。(魔女は頭の回転が速いので冗長をきらう。魔女と話せるチャンスが来たら話題を単刀直入簡潔に。しかし一言のあいさつは礼儀、忘れないこと。)
「ミスミスティですね、はじめまして、ラビィといいます。お願いがあってきました。この手錠・・・」
「魔女は頭の回転が速いので冗長をきらう。魔女と話せるチャンスが来たら話題を単刀直入簡潔に。しかし一言あいさつは礼儀、忘れないこと。・・・ね?」
ラビィの言葉をうるさそうにさえぎって言い、カメオの瞳がちらりとこちらを向く。
「そう、冗長、面倒、時間の無駄が大嫌い、でも願いを叶えたい者たちが私の時間を喰いにやってくるの。私は私のアトリエで創作に没頭したいのに、「魔女ご機嫌麗しく」あんなものを書かれたせいでかかしのひとよけもかたなしね。魔女対策をした強欲な者たちが毎日のように来ること来ること・・・。」
ラビィはそれを聞いて、本の内容がほとんど通じなくなったことを感じた。それでもここまで来た。
(魔女にも礼儀はある。)
ラビィはそれを信じてお願いを言おうと口を開いた。
が、またミスティがさえぎった。
「そう、魔女にも礼儀はある。というよりかかし抜けを達成した者には相応の魔法をもてなすという魔女のおきてのことね。今作品を描いているところだからもてなすのは無理!とはいえないのよねえ。」
ミスティがため息をつき、絵筆を持った手をほおに当てて憂う。そう、カメオは作品描画中のミスティの横顔だったのだ。
ミスティは続ける。
「でも本を読んでかかし抜けをした大勢の強欲者どもたちを相手にするのははっきり言って無理。そこで私はこうしたの。このドアにはまっているのは問迷鏡。願いは迷いからくるもの。どうしてそうなったのか、どうしたら解決するのか、自問自答の機会を与える魔導鏡。相応の魔法のもてなしよ。」
そう言うとカメオになっていたミスティは煙のような黒い曇りの中に姿を消した。
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