第28話 作戦会議

 翌日、放課後。いつものファミレスに告白作戦会議のメンバーが集まっていた。

 司令の永井巧、副司令の福原里美、参謀長の内田真理、それに一等兵に昇進した俺だ。


「やっぱり、断られたか」


 永井が言う。


「ああ。だが、そのとき、重要な証言を手に入れた。計画があるからオーケーできないと」


「計画?」


「そうだ」


「ふーん、やっぱりねえ」


 福原が言う。


「なんだ? 里美分かるのか?」


 永井が福原に聞いた。


「具体的に分かるわけじゃないよ。ただ、姫乃ちゃんは自分の中で付き合うタイミングがあるんじゃないかな、って前から思ってた」


「タイミングねえ」


「うん。まだ付き合えないだけで、いずれ付き合うつもりなんだと」


「だったら、俺が告白しているのは姫乃にとって計画を乱す迷惑な行為なのか?」


「基本的にはそうね」


「だったら、やっぱり……。いや、告白しない作戦はやめたんだったな。何より告白を姫乃が求めてきている。なぜだ?」


「それは佐原君が毎月告白しちゃったからだろうね」


「どういうことだ?」


 福原が言った意味が分からなかった。


「佐原君が姫乃ちゃんを愛しているという証明が告白だったんだよ。付き合っていない以上、それ以外に姫乃ちゃんと佐原君が特別である証拠は無い」


「……そうか。俺が告白をやめてしまえば……」


「ただの幼馴染みにすぎなくなる。でも、告白をしている限り、2人は特別な関係で居られる」


「だったら、オーケーしてもらえなくてもずっと毎月告白していけば……」


「2人はずっと特別な関係で居られる」


 福原は言った。しかし、内田さんがそれに異を唱えた。


「うーん、そうでしょうか」


「内田さん、違うの?」


「告白されている二宮さんにとっては佐原君は特別な存在です。自分のことを好きであることがはっきり毎月分かります。でも、佐原君にとって二宮さんは……」


「単に好きな人、しかもフラれてる人にすぎない、か」


「はい。つまり、佐原君が二宮さんを好きなことは証明されますが、その逆は証明されない」


「そっか。姫乃ちゃんにとってだけ有利な不平等条約ってことね」


「はい。もっと、露骨に言えば、佐原君が他の人のことを好きになったら浮気みたいになるけど、二宮さんはそうではない。単に佐原君の告白を断っている立場ですから」


 なるほど。俺が姫乃に告白している理由、それは姫乃と特別な関係になりたいからだ。それは、要するに、姫乃を独占したい、ってことだ。だが、告白しても受け入れてもらえない限り、俺は姫乃を独占できない。


「ということは、俺がそれでよければいいんじゃないか。毎月告白はするが、姫乃と付き合うことを望まなければ」


「そうですが、なんか悲しいですね」


 内田さんが言う。


「あきらめたら結局だめだと思う。告白に誠意が無いのは見抜かれるよ。それは告白してないことと同じ。佐原君はこれまでの全ての告白で真剣に告白したから姫乃ちゃんも安心していられるんだと思う」


 福原は言った。


「うーん、だったらどうすれば……」


 議論は袋小路に入った。


「結局、本気で告白するしかないか。うっかり受け入れてしまうような告白を。姫乃は今回の告白も『思わずオーケーしそうになった』って言ってたし」


「そうなの?」

「それを早くいわんか、佐原一等兵」


 福原と永井が俺を責めた。


「すまん、水俣の時も言われたから単にお世辞みたいなもんかと」


「でも、いい告白なら思わず受け入れちゃうのは分かる。私だってそうだったもん」


 福原が言った。そういえば、そういうことを言ってたな。


「確か体育祭の後に永井に告白されたんだっけ?」


「うん。みんなで盛り上がった後で、2人きりで夕日の中だったから。つい、うっかり」


「うっかりってなんだよ」


 永井が言った。


「ごめん、ごめん。今は心から好きだよ。でも、あのときはそうでもなかったけどムードに流されて……」


「あのー、そういえば次の10月1日って……」


 内田さんが言う。あ、そうか。


「体育祭だな」


 永井が言った。


「じゃあ、そこで佐原君が活躍して同じように告白したら?」


「永井と同じことやるのかよ」


「成功事例があるやつが一番だろ」


「問題は……俺が体育祭で活躍できるかどうかだな」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る