第14話 内田真理

 翌日、登校すると内田真理が本を読んでいるのが目にとまった。少し文章が目に入る。すると、それは俺が昨日探していた「王者のサーガ」シリーズなのが固有名詞で分かった。


「内田さん、それってもしかして……」


 俺はつい話しかけてしまう。


「ん? これ? 『王者のサーガ』だよ」


「60巻?」


「そう」


「いいなあ。俺は昨日買いに行ったらもう無かったよ」


「ああ、昨日のあのときね。ごめんね、私が最後の一冊買ったから」


「え! そうなの?」


「うん。私もずっと読んでるから」


「そうなんだ」


「あ、私が読んだら貸そうか?」


「え? いいの!」


「うん。でも、2,3日かかるかも」


「もちろん、いいよ。気にしないでゆっくり読んで」


 つい、話が弾んでしまった。


 気がついたら、ほとんど話さない内田さんとの会話をクラスの何人かが興味深そうに見ているのに気がつく。俺は気まずくなり自分の席についた。ふと気になり、姫乃の方を見る。すると、すごい顔でにらんでいた。まずいな。


◇◇◇


 その日の帰り道、姫乃は内田さんのことについては何も言ってこなかった。


 姫乃と別れた後、俺は念のため「王者のサーガ」が入荷していないか書店に行ってみた。だが、当然無かった。あきらめて書店を出ようとしたときだった。


「内田さん?」


「あ、佐原君。今日も来てたの?」


 ちょうど店を出ようとしていた内田真理とまた出くわした。


「うん、『王者のサーガ』が入荷していないか一応ね」


「そっか」


「内田さんは?」


「私は毎日のように書店に来てるから。何か面白い本が無いか探してるんだ」


「そうなんだ」


 俺たちは書店を出て歩きながら話し続けた。


「内田さんは『王者のサーガ』を読み始めて長いの?」


「うーん、そうでもないよ。彼氏に勧められて読み始めたからそのときには50巻になってたし」


「ふーん……。えっ、内田さん、彼氏居たんだ」


 クラスでは女子とも話さない内田さんに彼氏が居るとは意外だった。


「うん、居るよ。……あ、もしかして、私のこと狙ってた?」


「あ、いや、そういうわけじゃないけど」


「ふふ、冗談、冗談。佐原君は二宮さんだもんね」


 内田さんも俺と姫乃のことを知ってたのか。


「姫乃とはただの幼馴染みだから。彼女じゃ無いよ」


「でも、好きなんでしょ。何回も告白してるって」


「それも聞いてたの? まいったなあ」


「ふふ。だから、佐原君とは安心して話せるかなあって思って。あ、私こっちだからこれで」


 交差点にさしかかったところで内田さんが言った


「うん、それじゃあ」


 俺たちは別れた。


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