第10話 作戦会議

「では、告白作戦会議を開始する」


 5月中旬の放課後のファミレス。ここは学校から少し離れた商店街の中だ。

 リアルで言われると恥ずかしい会議名を永井はさらっと言った。

 もちろん、メンバーは司令である永井巧とその彼女である副司令の福原里美、それに二等兵の俺だ。


 永井は司令を意識してなのか、両肘を突いて手を口元に寄せるスタイルを取っていた。


「でも、どうするの? いいムードでもダメだったよ」


 福原が永井に言う。


「手強いな。相手の陣地は堅い。容易には崩れない」


「やっぱり、アレしかないかなあ」


「ふむ。あまり使いたくないが、もうそれしか無いだろうな。最終兵器だ」


「……当事者を置いてけぼりにして進めないでくれるかな」


 俺は話しについて行けずに口を挟んだ。


「ごめん、ごめん。佐原君はここまでずっと毎月1日に告白してきたんでしょ?」


「うん」


「だから、今度の1日には告白しない、って作戦」


「は?」


 俺はあきれて言った。


「告白作戦会議だろうに、告白しないでどうするんだ」


「だから、それが作戦よ。押してだめなら引いてみなってね」


「そういうのは姫乃には通用しないと思うけど」


「そんなことないよ。姫乃ちゃんだって乙女だもん。佐原君の告白を待ってるって」


「で、その告白が無かったらどうするか……」


 永井が無駄に重々しく言う。


「姫乃は何もしないと思うよ。そのまま1日が終わって終わりだろう」


 俺は姫乃の性格からそう予想した。


「そうはならないと思うな。姫乃ちゃんは必ず何かしらリアクションをしてくる」


 福原の予想は俺とは違った。そうだろうか。俺は告白を始めてから毎月必ず告白をしてきた。夏休みだって元日だって欠かしたことは無い。だから、もし告白しなかったらどうなるか。想像は付かなかった。少し恐い。


「問題は姫乃ちゃんがどういうリアクションをするかよね。拗ねるか、それとも……」


「告白をねだるか」


 永井が言う。


「姫乃が? そんなことするかな」


「可能性はあるよね」


「あいつ、プライド無駄に高いぞ」


「そんなの関係ないよ。人間、焦ったら必ず本性が出るから」


「姫乃が焦るかなあ」


 あまりそういう姿は見たことが無い。


「焦るって。で、もし告白をねだられたら、そこで告白する」


「相手が城門を開けたところで攻め入る、ってことだな。完全勝利」


「そんな流れになると思えないけど」


「永井司令、成功確率はどれぐらいですか?」


 福原副司令が聞いた。


「うむ、60%はあるな」


 高いんだか、低いんだか。


 だが、他に策があるかと言われると、もう無かった。試す価値はあるかもしれないな。


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