再びインターハイ予選10

 次は負けないと、川野は様子を見ながら、パスを回していく。


 川野から山木へ、山木からまた川野へ、川野から舘野へとパスを回しながら、戦術を組み立てていく。


 パスをしている間に立川がスリーポイントラインのところにやってきた。


 ゴール下にいる舘野はシュートを試みる。ただ、そこには、灯が守っている。無理と判断した舘野は、ジャンプシュートを打つつもりだったが、立川にパスをした。


 立川はスリーポイントを狙える位置にいる。落ち着いて、スリーポイントを打つ。


 綺麗なアーチを描き、ボールはシュッとリングの中に入っていく。


「パス、ありがとう」


 立川は舘野にお礼をすると、すぐにディフェンスへと切り替えた。


 俺は早めに智樹にパスを出すと、自分でゴール下へと切り込み、パスをアピールする。


 智樹はパスは難しいと合図すると、慧を呼んだ。


「慧!」


 ここに走れと目で訴える。


 慧は智樹の意図を汲み取り、走る。


 智樹は慧へのパスをしようと見せかけて、灯へとパスを出す。


 灯はシュートをしようと跳躍した。このとき、舘野のデイフェンを見て、即座に元のポジションに戻った俺にボールをパスした。


 俺はスリーポイントシュートを打つ。


 ズレたか。俺はリバウンドとってくれと願いながら、ボールの動きを見た。


 ボールはリングに当たり、ぐるぐるとリングの周りを回りながら、スーッと中へ入っていった。


 入った! よく入ったな。あのシュート。


 俺は自分でもびっくりだ。


 でも、どうして、あのシュートが入ったのか、考えるのは後だ。


 すぐにディフェンスだ。


 川野は一瞬にして、スーッと俺の脇を通り抜けていく。


 今のは速い動きだ。


 俺は川野の速さに動きが読めなくて、あっさりと抜かれた。


 その勢いのまま、川野はレインアップシュートを簡単に決めた。


「おぉ、やるな」


 俺は思わず呟いてしまった。今のは全く読めなかった。それほど速いスピードだった。


 城伯高校のオフェンス。負けてられないな。やっぱりスピードのあるプレーがもっと必要だな。


 有無を言わせず、貴にパスを出す。貴はすぐに智樹へとパスをする。


 なるべくドリブルをせずに、速いパス回しでディフェンスを崩していく。智樹から再び俺へ。


 俺は、また貴にパスを出した。


 貴は安井の体、スレスレのところを抜けていき、フワッとボールを浮かせた。


 そのボールは高く上がり、リングの中へ吸い込まれていく。


 第3クォーターは、お互いに得点を重ねていた。


 でも、第3クォーターが終わったときには、95‐82と城伯高校がリードしていた。


 インターバル2分。ここで、また作戦会議だ。


 高宮コーチはスタッフと何かを話していて、困惑したような顔をしていた。


 達也という名前が聞こえてきたような気がする。達也の結果が分かったのだろうか。でも、今、ここで伝えたらプレーに集中できなくなると思って、伝えようか伝えないままいくか、高宮コーチは迷っているのかもしれない。


「本当は集中できないと困るから、言おうか迷ってたけれど、伝えておく。達也はアキレス腱断裂で、リハビリも含めると、1年以上かかる。もう、高校の間にはバスケはできない」


 高宮コーチに達也のことを聞き、全員、呆然とした。


 達也は、アキレス腱断裂で高校生の間はバスケができない。そんな大きな怪我をしてしまったのか。なら、達也の分までおもいっきりバスケをしないと。きっと、達也も気持ちは俺たちと一緒だ。


「達也の分までやってやろうぜ。本人が一番辛いはず。でも、気持ちは俺たちと同じでインターハイ行きたいはずだ。達也と一緒に戦おう!」


 俺は鼓舞する意味も込めて、前向きな言葉をメンバーに伝える。


「そうだな、達也も戦っている。俺たちも達也の分までおもいっきりバスケしようぜ」


 灯が笑顔で答える。


「あぁ、達也の分までやるぞ!」


 慧も同様に声をかける。


 円陣を組んでいつものルーティンをする。


 さぁ、第4クォーターが始まる。泣いても笑っても、この10分で勝負が決まる。

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