イップス5
精神科医とメンタルトレーナーを交えて、勉強会を行った。
明日の部活では、実践のためのメンタルトレーニングを学ぶ。
慧は薬も服用しながらのメンタルトレーニングだ。
メンタルというのは、人によってさまざまな症状があるため、不明な点もある。
ただ、わかってきたのは、脳が正常に働いていないこと。特に前頭葉や前頭前野の働きが弱っていると言われている。
脳が正常に働くように考え方や捉え方を変えれば、治るのではとも考えられている。
とはいえ、まだまだ、わからないことだらけだ。これがメンタルの厄介なところだ。
俺は家に着くと、そのまま、自分の部屋に行き、ベッドに倒れ込んだ。
俺が慧にしてやれることはないのか。慧を助けたい。やっぱり慧とまた楽しくバスケがしたい。
うーん、どうしたらいいのか、わからない。考えろ、考えろと言い聞かせる。
答えは見つからない。俺の頭じゃダメか。いや、待てよ。兄ちゃんに相談してみよう。ヒントになるかも。
兄ちゃんはNBAを目指すため、アメリカにいる。今、どうしているだろう。
すぐに兄ちゃんに電話する。
あれ? 時差大丈夫かな? 今、電話したらダメか?
「もしもし、樹か? 元気にしてるか?」
兄ちゃんの声だ。
「あぁ、元気だ。兄ちゃん? 今、ちょっと時間大丈夫か?」
「どうした?」
俺は兄ちゃんにイップスのことを話した。兄ちゃんはしばし、沈黙の後、困惑したように答えた。
「本人の問題もあるから、なかなか難しいな、それ」
やっぱり助けることはできないのか。兄ちゃんでもイップスのことはわからないか。
「でもな、樹。イップスになったら、きっと、また、ミスったらどうしようという不安や恐怖が強いはずだから、できたときに、それを褒めてやれ」
兄ちゃん、ちゃんと答えられることが凄い。結構、難しい問題だと思うけど。
「褒める?」
「あぁ、できたことよりもできなかったこと、ミスってしまったことに焦点がいきがちで、だんだん、心も狭くなる。だから、褒めて認識させるんだ。こんなこともできるのかって」
兄ちゃんは兄ちゃんなりに考えているんだな。周囲にイップスになった仲間がいるのかな。他人がイップスの人に何かできることは難しいって言ってたのに、ちゃんと答えを出している。
「わかった、兄ちゃん、ありがとう」
兄ちゃんにお礼を言って、電話を切る。なんだか、安心した。褒めて慧にこれができるんだと、認識させることができたらいいな。
「あぁ、待て待て!」
と思ったら、兄ちゃんが呼び止めた。
「ん?」
「多分、できて当たり前みたいな考え方になってしまうのもよくない。だから、できるってことは当たり前じゃなくて凄いことだということを伝えて」
「わかった」
「とにかく前向きな言葉をかけてやる。そうすることで、だんだん、イップスになった人も前向きになっていけると思う。その人の捉え方次第というのもあるけれど」
「兄ちゃん、結構詳しいな」
「まぁ、俺のチームにイップスになった人いたから。ただ、最終的には、本人次第だからな」
電話越しに兄ちゃんと話して、なんだか俺の心もスッキリしたような気がする。
「まぁ、でも、基本はリラックスさせることが大事だから、脱力トレーニングができればなぁ」
「脱力トレーニング?」
「あっ、すぐ緊張する樹にもお勧めだよ。調べてみな、じゃあな」
兄ちゃんは電話を切る。脱力トレーニングってなんだ。イップスのときもリラックスが大事なのか。緊張する俺にもいいのか。気になるな。脱力トレーニング。
とりあえず、俺が前向きにいこう。少しでも慧がバスケを取り戻せるように。
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