イップス3

 イップスが判明して、慧は相当落ち込んでいた。いつもなら、授業中だって慧は真面目で、俺と違って勉強している。だけど、イップスとわかってから、上の空になっている。


 イップスと言われて、正直、受け入れられるものではないよな。他のことをする分には、いつものように普通にできる。それなのに、特定の動作だけできなくなってしまうんだから。


 慧にとっては、バスケのときだけ足が震えて動かない。そんなことあり得るのかって思うよな。俺には何ができるんだろう。よりによって、なんで慧がイップスなんかに。


 授業が終わって、部活の時間となった。今日はメンタルのトレーニングと勉強がメインだ。メンタルのことだし、慧は、今、メンタルでやられているから、気が乗らないだろうな。


「慧、大丈夫か? 無理するなよ」


 俺が慧にかけられる言葉はそれしかなかった。慧は軽く首を縦に振って、とぼとぼと体育館へと向かった。その背はなんだか寂しそうだ。メンタルは難しい。


「慧、やっぱりショックなんだろうな……」


 美香が俺の横で呟いた。美香の言う通りだ。慧の背中からも伝わってくる。俺たちにできることがないから、悔しさも込み上げてくる。


 イップスは精神面からくるから、このまま、気持ちがさらに沈んでいくことはないのかな。ますます慧のことが気になってきた。


 体育館につくと、慧がひとりでシュート練習をしようとしていた。シュートをしようとしても足が震えてジャンプができなくて、少しイラついて、床にボールを叩きつけた。


「もっと、練習して上手くならないと……」


 慧の寂しそうな声が聞こえてきた。慧の心が壊れていくような気がする。声を聞くだけで辛くなってくる。


「慧、違うよ。こうやって練習を増やしてどうにかなるものじゃない」


 俺は慧をハグして宥める。


「辛いよな、バスケのときだけ足が動かなくなるなんてさ……」


 慧は俺にしがみついた。慧の目からは涙が溢れていた。


 どうしたらいいかわからないよな。早く解決策を見つけてたい。でも、そのやり方を誰も知らない。だから、俺は慧の思いを受け止めるしかないんだ。


 俺も凄く辛い。こんな慧見たことない。いつだって、リーダーシップがあって、チームをまとめて、励ましてくれて。何もできないけれど、受け止めることはできる。だから、せめて、慧の思いは受け止めるよ。


 慧は、たくさん泣いて少し落ち着きを取り戻してきた。


 その頃、メンバーが全員揃って、高宮コーチ、精神科医、メンタルトレーナーを待つ。


 人間のメンタルは複雑だ。もっと単純だったらいいのに。俺はメンタルについて、あれこれと考えていると、高宮コーチ、精神科医、メンタルトレーナーがやってきた。


「よろしくお願いします」


 俺たちは高宮コーチ、精神科医、メンタルトレーナーに挨拶をした。これからメンタルのことをしっかり勉強しよう。

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