インターハイ予選13

 俺のミスで大量に得点を奪われた。どうにかしないと。次はオフェンスだ。どんなプレーをするのか決まったら、はっきりと仲間に伝えよう。


 そんなことを考えていると、審判がプレーを止めた。高宮コーチがタイムアウトを要求していたみたいだ。審判がタイムアウトの合図をする。


 流れを変えるには、タイムアウトをとって、プレーを中断させるのも手だ。高宮コーチは嫌なムードを断ち切りたかったのかもしれないな。


「いいか、ミスは皆でフォローするんだ。お前たちは仲間でチームだ。仲間を信じないでどうする。お前たちのバスケだ」


 高宮コーチは穏やかだが、力のこもった声だ。


「はい!」


 高宮コーチの力強い声に、勇気づけられ、仲間が元気よく返事をしたとき、俺は、ふと、慧のことが気になって様子を見た。慧の表情が硬い。高宮コーチが言っていたように、本当に慧の調子が悪いのか。


「慧、どうした?」


 俺が慧に声をかけても、表情は変わらない。ベンチに下がったことで、余計にショックを受けたのかと思っていた。でも、何かが違う。キャプテンとして責任を感じているのは確かだ。


「悪い、俺がもっとリバウンドできればいいんだけど、何故か跳べないんだよ。リバウンドができない……」


 慧自身は違和感に気がついていた。でも、理由がわからない。どういうことだ。


 タイムアウトが終了する。


 慧のことが心配だが、まだ、試合は終わっていない。


 タイムアウト終了後、選手交代。智樹に代わり、達也が再び入る。徳丸高校の選手交代はない。


 慧のことが気になりつつも、俺はコートに入る。


 城伯高校のオフェンスから始まる。ボールがコートの中に入ると、心を落ち着けて周囲を把握する。ゆっくりドリブルをする。河田が狙っているな。このまま素直に抜こうとすれば、スチールされる。


 抜く姿勢を見せて、ボールをバウンドさせて灯にパスをした。灯はボールをもらったとき、既にフリースローラインまで切り込んでいた。ゴールのほうへ振り返り、リングを見る。宮田が邪魔をしていて、このままシュートは打てない。どうするんだ、灯は。


 ボールを奪われないように腰に隠し、軸足ではない左足を左右上下に動かす。ダブルチームで、滝にも道を塞がれた灯。ドリブルをして、ダブルチームから抜けようとしたが、なかなか抜けない。


「こっち!」


 背後で達也の声がする。灯は達也のほうを振り返る。同時に宮田と滝もパスを出させないようにしている。


 滝の足が開いた。股抜きパスが達也に通りそうだ。そう考えた俺は達也に目で合図した。


 灯は滝の股を通して達也にパスする。達也はしっかりと受け取り、一歩下がってシュートする。


 ディープスリー。スリーポイントラインよりも遠いところから行うシュートだ。


 どうだ。入ったか?!


 ボールはアーチを描いてリングに吸い込まれようとしている。これは入りそうな予感がする。


 シュッ


 ボールは見事にリングの中へ。


 おぉ!! 久しぶりに入った。よし! このままの勢いで行くぞ! 俺もまた気を引締め直した。


「ディフェンスだ! 皆で声出していこう!」


 俺は仲間に声をかけて、チームの元気を取り戻そうとした。俺は俺の仕事をする。慧が不調なら、副キャプテンの俺がしっかりしないと。


 それから、入れては入れ返すという状態が続いて、スピードも増した。一瞬にしてオフェンス、ディフェンスが切り替わる展開。時間もどんどん過ぎていき、残りあと40秒のところまできた。


 92-91


 1点差で城伯高校が勝っている。まだ、残り40秒もある。油断はできない。あと3回は攻撃できる。徳丸高校としては少しでも時間を止めて、チャンスを作って逆転したい。そういう思いから、わざと、際どいところを狙って、ファウルで止める。


 徳丸高校はチームファウルは5になっていて、シュートシチュエーションでなくても、城伯高校にフリースローを与える。


 貴のフリースロー2本。1本目はリングに当たり外れた。ボールがリングに、ボンッと当たった音が低く響く。もう一度、息を整え、ゆっくりと構える。2本目のフリースロー。2本目は綺麗にシュパッと入る。


 徳丸高校のオフェンス。もう時間も迫ってきているため、すぐに攻めたい。越野がロングパスを出して、吉本へとボールを送る。吉本はノーマーク。ゴール下のジャンプシュートを軽く決める。


 93-93


 同点に追いつかれた。こっちもすぐに攻めないと。同点のまま、4クォーターが終わると、オーバータイム、延長5分で試合をする。俺はオーバータイムに持ち込むことも視野にれながら、灯に走れと合図する。


 灯はゴールの方向へ走って、台形の中へと入っていく。一度は、灯にパスを出す予定だったが、囮に使うことを決めた。灯には出さず、快にパスをする。


 快はボールをキャッチすると、ジャンプシュートを放つ寸前。吉本がシュートブロックをした。ボールは弾かれ、河田の手に渡った。


 まずい、残り2秒しかない。これで決められたら終わりだ。俺は猛ダッシュで戻って、シュートやパスを防ごうとした。


 河田は、ここで、シュートを打たないとダメだと思い、一か八かの賭けに出る。強引にゴールに向かってボールを投げた。その位置はセンターラインの少し後ろから。つまり、まだ、城伯高校の陣地に入っていない。


 ブー


 河田がシュートを放ったと同時にブザーが鳴る。そのボールはどうなったのか。俺たち城伯高校だけでなく、周りにいた他校のバスケ部、徳丸高校の仲間たち、コーチたちと、この場にいた全員が度肝を抜かれた。


 シュパッ


 まさかの出来事だ。会場が一度静かになった。あの位置からシュートが入ってしまったのだ。審判団も驚きを隠せなかった。審判の判定はカウント。


 93-96


 今のシュートは、3ポイント。よって、徳丸高校の勝利が決まった。


「うわぁぁぁぁぁ!!」


 徳丸高校のメンバーが一斉に抱き合って喜びを分かち合った。その横で俺は悔しさを感じていた。久しぶりだ。こんなに悔しさを感じたのは。これは明らかに勝てた試合だった。俺がもっとやりたいプレーをはっきりさせていれば、こんなことにはならなかった。


「おまえはよくやったよ! おまえのせいじゃない!」


 慧が俺のところに来てハグする。


「悔しい……」


 俺が口にしたとき、自然と涙が出てきた。涙にもらい泣きしたか、仲間たちも一斉に涙した。


「皆、よく頑張ったよ。接戦だったじゃん。今までだったらボロボロだったよ。成長したってことだよ」


 美香が涙をこらえて声をかけてくれた。続いて高宮コーチも声をかけた。


「よかったぞ、皆。これで、また一歩成長したな。ほら、頭切り替えろ。テーブルオフィシャルズやらないといけないんだからな」


 テーブルオフィシャルズとは、得点やファウルなどを記録したり、タイマーをセットしたり止めたりする役員のことをいう。高校生のバスケは必ず、試合後、テーブルオフィシャルズをやらなくてはいけない。


 高宮コーチの言葉に、すぐにその場を退散すると、次の試合のテーブルオフィシャルをするための準備をする。


 あっという間に時間は過ぎ、テーブルオフィシャルズの仕事を終えると、軽くミーティングをやって、その日は解散した。

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