プロ選手との練習2

 赤点をとったらバスケじゃなくて補習だと高宮コーチに脅されて(?)勉強も必死だった。


 補習でバスケができなくなるなんて絶対に嫌だ!


 といっても、授業を全く聞いてないから、全然わからん……


「あぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


 意味不明な声を上げて、俺は勉強を投げ出した。


「やっぱり無理ぃ、勉強嫌いだぁ!」


 何をひとりで叫んでいるのか、異様な光景に映ったのか、母さんが声をかけた。


「なんていう声出してるの?」


 俺は恥ずかしくなった。母さんに聞かれていたか。


 でも、勉強しないとバスケができなくなる……と考えて、再び机に向かうけれど。


「ああぁぁぁぁぁぁ!!」


 結局、また、変な声を上げて勉強をやめるという繰り返しだった。


 そんなことをしているうちに眠くなってしまい、机に顔を伏せて眠ってしまった。


 気がついたときには、朝の7時30分。


「ん??」


 俺は寝ぼけ眼で時計を見る。


「マジかぁ!!!!!!」


 急いで身支度をして食卓へと降りてきた。


「やっと起きたか……」


 母さんは呆れ顔で食パンをくれる。


「気をつけていってらっしゃい」


「行ってくる!」


 俺は食パンを咥えて外へと飛び出す。


「おはよう、樹」


 美香が声をかけた。


「おう、あれ? 珍しいな。美香が遅いなんて」


 樹の言葉に、美香は舌を出して笑う。


「珍しく寝坊しちゃった」


「急げ!」


 俺と美香は走って学校へと向かう。


 学校に着くと、チャイムが鳴るまで、美香に勉強を教えてもらっていた。


「樹、勉強しないとヤバいもんね」


 美香は背中をポンポン叩く。


 最近、美香はよく背中を強く叩いてくるような気がするんだけど……


 チャイムが鳴る。


 これから、朝のホームルームがあって授業が始まる。


 授業中は元気が出ないけど、授業がすべて終われば、ここからは俺の時間。誰よりも早く体育館へ向かった。


 部活では、いつものウォーミングアップと基礎練習を行って、その後、1対1や5対5などの実践練習を行う。


 基礎練習を重視して時間をかけてやっているため、最近は2時間半~3時間の練習が多かった。


 でも、あっという間だ。


 きっと、本当にバスケが好きだからだ。


 授業ときと全く違う。


 授業時間は50分。50分の授業ですら長く感じるのに、6限もあるなんて、やってられるかぁって思うのに。


 バスケの時間だけは、3時間もあっという間に終わってしまう。


 この日の練習を終えて、帰る準備をした。


 そのとき、ふと思った。


 プロ選手って誰を呼んでくるんだろう。


 高宮コーチはプロ選手を呼ぶとは言ってたけれど、誰とは言わなかった。今日も伝えていない。


 サプライズということなのか。


 そんなことを考えていると、美香が肩を叩く。


「ん? どうした、美香」


「一緒に帰ろ」


 美香はニコニコしている。


「あぁ……良いけど……」


 俺は、何か企んでいるような美香の表情に疑問を持ちながらも、一緒に帰ることを承諾する。


 帰る支度をしている美香を待つ。


「よし、帰ろうか」


 美香がやってくる。


「おう……」


 やけにご機嫌だな。これは何かある。ちょっと怖いんだけど。


 俺がしばらく黙ったまま歩いていると、美香が誘導する。


「こっち行こう」


「えっ? こっちは家とは方向が違うぞ……?」


「着いた」


 美香につられてやってきたところは、カフェである。


「えっ? なんで?」


 俺は目を丸くした。


「ここで、勉強! 本当にバスケじゃなくて補習になっちゃうぞ」


 美香に言われて俺は呆然とした。


「マジかよ……」


「あれ? 聞いてないの? あまりに勉強しないから、勉強教えてってさ。樹のお母さんから」


「いつの間にそんな話をしたんだ?」


 母さん、美香を巻き込んだのかよ。学校で習う勉強って、社会に出て何の役に立つんだ。簡単な計算だけじゃないか、役立つのは。


 気の乗らない俺の手を引っ張って、美香は無理矢理カフェへと連れていく。


「あぁ、もう、わかったって。俺だってバスケできなくなるのは嫌だし」


 俺はようやく気がついた。朝もチャイムが鳴るまで教えてくれていたのは、母さんに言われたからか。


 美香との勉強は2時間くらい続いた。


 ようやく解放された俺が家についたのは、20時半。これから夜ご飯だ。


 母さんは、美香に勉強を教えてくれと頼んだことをスルーした。


「母さん、美香に頼んだだろ? 勉強教えてくれって」


 俺から話を切り出す。


 すると、母さんはにっこり笑う。


「あら、勉強しないとバスケできなくなるでしょ? でも、ひとりじゃ勉強しないからさ。美香ちゃんがいたほうがいいかと」


「俺だって勉強するときはするよ」


 母さんとそんな会話をしながら、夜ご飯を食べる。


 勉強でも頭を使ったからか、夜ご飯を食べて、お風呂に入った後は、すぐに寝てしまった。

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