プロ選手との練習

 練習試合が終わって、1週間。


 高宮コーチはプロ選手との練習ができるように交渉すると言っていた。


 プロ選手との練習ってどんなものなんだろう。


 プロの選手は俺にとって未知の世界。練習メニューも違うんだろうなと想像していた。


 まだ、日時は決まっていないが、今から楽しみだ。


 もちろん、プロ選手なので緊張もする。でも、練習試合の時のような緊張感というか恐怖はなかった。何故だろう。


 もう、そのことばかり考えていて勉強なんて身に入らなかった。


 今は日本史の授業中なのに、バスケのことを考えていて、気がついたら、ノートに試合展開をどうするか、図を書いていた。


 先生が喋っている。


「鎌倉幕府は……」


 俺は先生の話を全く聞いていない。


 真剣にバスケのことを考えていた。


「はい、今日はここまで」


 授業が終わると、ホームルーム。


 ホームルームでさえもさっさと終わって欲しい。


「もうすぐだから、ビシッとしなさい!」


 美香に強く背中を叩かれ、目を丸くする。


「いってぇな!」


 俺は美香を睨みつけていると、担任がやってくる。


 担任は女性だ。男を虜にしてしまうくらい綺麗で美しい。


 でも、残念ながらすでに結婚している。


 ホームルームが終わると、ようやくバスケの時間。


 速攻で準備して体育館に向かった。


「バスケ馬鹿だな」


 慧の声が聞こえてきた気がするが、そんなことは無視。


 体育館へ行くと、すぐに着替える。


 バッシュの紐をキュッと締めると、すぐさま、シュート練習を始める。


 誰よりも早く来て練習しないと。俺は皆より下手だからな。


 シュート練習をしていると、徐々にメンバーが集まってきた。


「先輩、早いですね」


 快が呟く。


 快も負けじと、さっさと着替えてシュート練習を始めた。


 数分後、全員が集まり、本格的な練習開始だ。


 まずはフットワーク練習。


 1対1でオフェンスは自由に走り回る。ディフェンスはオフェンスについていく。離されないように、抜かれないようにポジションをとる。これをコート内で10往復。


 その後はドリブル練習。まずは、1人で。腰の高さで体の横でドリブル、脛当たりの高さで行う低いドリブル。左右行う。


 次に足を上下に開き、身体の横で手の向きを変えながら、左右に動かしながら低く速いドリブル。ただし、ボールがつく場所は必ず同じ位置。これも左右行う。


 これが終わったら、V字ドリブル。左右の手を交互に変えて、正面でVの字を描くように低く速いドリブル。


 さらに股を通して行うドリブル。これも低く速く。


 これらを50回。


 この後は2人1組になって、ドリブルをしながら、ドリブルをしていない手でボールをキャッチし、またパスを返す。これを左右50回。


 ドリブル練習が終わったら、パス練習。頭の上から投げるパス、胸から出すパス、ワンバウンドパス、背面からのパスを50回。


 ルーティンとなった練習メニュー。基本が大事だからと高宮コーチはいつも言っている。


 膝を曲げて胸まで近づけるジャンプ、足でグーをしてジャンプ、チョキをしてジャンプ、パーをしてジャンプ、サイドステップでジャンプを各20回、その後、コート内をダッシュ。この一連の動きを3セット。


 このメニューも相変わらず行っている。


 これらが終わったら、今度はシュート練習。スリーポイント、フリースロー、レインアップシュートなどシュートの練習でフォームを確認しながら、20分練習する。


 ちょっと休憩。これ、全部やって1時間くらい。15分休憩してここから、実践的な練習に。


 高宮コーチは基本練習の時のフォームに修正は、ちょこちょこっと教えてくれるけど、実践的になると黙って見ていることが多い。


 ヒントはくれる。それは練習しながら、自分たちで考えろということ。でも、楽しい。押し付けないところがいいのかもしれないな。


 そして、富滝との練習試合の後、実践的な練習のメニューは、自分たちで設定することになった。


 高宮コーチが俺たちを信用してくれているようで、なんだか嬉しい。自分たちで話し合って、メニューを決める。


「よし、ツーメンしよ」


 慧が声をかけた。


 ツーメンも基本的なバスケの練習なのだが、この練習が嫌いな人も多い。


「よし、元気にいこう!」


 慧の声が響き渡る。


 2人でパスを出し合って、レインアップシュートでゴールを決める。単純な練習だ。


 これは連続20本シュートを入れるまで終わらない。これが皆が嫌がる理由。


 俺たちは励まし合いながら、ツーメンをする。


 結局、5度くらいやり直して、ようやく連続20本入れることができた。


 その後、1対1、2対2、5対5を行う。その中でディフェンスを確認したり、スクリーンを確認した。


 高宮コーチが久々に声をかける。


「駆け引き、大事だぞ。駆け引きしよう。もっと相手と相手の動きを見よう。一瞬の隙が見えるときが必ずある」


 高宮コーチに言われて、俺たちは駆け引きすることも頭に入れて、5対5を行う。


 1時間オーバーしてしまったが、3時間の練習で終了した。


「そうそう、プロ選手との練習だけど、再来週の土曜日にやることになった。たくさん、学んでくれ。それと……」


 高宮コーチは、一旦、言葉を切ると、ビシッと答える。


「本業は勉強だからな、勉強もちゃんとすること。赤点とったら、バスケじゃなくて勉強の補習だからな」


「えぇぇぇ~、やっべー!!!!!」


 俺は思わず声を漏らした。


 バスケをやるためには、勉強もちゃんとしなくては! 俺、絶対、このままだと赤点じゃん!


 そんな俺の態度を接したのか、高宮コーチは、頭をぐちゃぐちゃに撫でて一言。


「勉強してないことがバレバレだぞ」


「うっ……」


 メンバーがクスクスと笑っていた。

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