睡眠学習
窓側の最後尾は、三十に少し足りない席の中で一番人気の場所だ。みんながその席を狙っている。わたしも「どこでも好きな席を選んでいいよ」と言われたら十回の内八から九回はその席を選ぶ自信がある。十中八九というやつだ。とはいえ、それも十回も言われると知っていたのなら、という仮定の話であって実際に言われたら絶対に窓側の一番後ろの席が良いと答える自信がある。百発百中。少し違うけどそんな感じだ。けれど、それがどうしてかと問われると答えに詰まってしまう。別に窓側の最後尾だからといって、授業をサボっていたりしたら先生に怒られない訳じゃあない。国語の時間の音読も算数の時間の回答も、席順通りに回ってくる。今日もまた、わたしの斜め前の席に座っているトキトくんが当てられた。トキトくんからわたしの間には六人いる。これだけ人が居るとわたしが当てられる番が来るまで時間があるように感じられるけど、実際のところ、あっという間に残り二人とかになってしまう。そんなときに「六月なのに季節外れの雪が降ってニュースになって、テレビにインタビューなんてされないかなぁ」なんて空想をしてしまうのはとてもよくない。特に、手袋もせずに雪遊びに夢中になって
「一緒にお昼寝しよ、
いくらお説教中とはいえお昼寝の誘惑に耐えられる人類など居まい。我ながら完璧な思いつきだ。天才は一パーセント閃きと九十九パーセントの才能とあっかんべーの人も言っていたし、わたし、天才かもしれない。トキトくんをさぁさぁと引っ張るとトキトくんは黒い短髪の頭を押さえだした。頭が痛いのかもしれない。それならなおのことお昼寝するべきだ。トキトくんは、わたしとトキトくんが双子の兄妹なのは自明の理なのにも関わらず「オレと双子だとは思えない」というよくわからないことを今日も呟きながらベッドに来てくれた。わあい。お昼寝自体とても気持ちよくて好きだけど、トキトくんと一緒にするのは一人でするより何倍も気持ちよくて大好きだ。思わずニコニコしてしまいながら、わたしはトキトくんにおやすみのちゅーをして枕に頭を預けた。トキトくんの腕の中で目を覚ますと一時間くらい経っていて「ブンスウドウシノワリザンハワルホウノギャクスウヲカケル」という謎の呪文が頭から離れなかった。
〈睡眠学習・終〉
短短編集 陸離なぎ @nagi_rkr
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