第10話 俺の友達は良い奴なんだ
「柳さんと良い感じなのか?」
「え?」
クラスメイトと中間テスト打ち上げ会を行った日の夜。佐倉と電話していた俺は不意にそう尋ねられた。
現在、佐倉がハマっているというオンラインゲーム真っ最中だ。正直そこまで好みでは無い。
でもプレイすれば佐倉は喜んでくれるし、何より話す時の話題になる。
倉持さんのために百合作品を勉強するのと同時並行でオンラインゲームも勉強していた。
「俺は見た。ファミレス帰り、柳さんと連絡先交換しているのを」
「まぁ交換したけど…」
「俺は交換してない」
「ええっと」
ドリンクバーに行った時に約束した連絡先交換は有言実行された。
しかし柳さんはあまり注目されたくなかったのか、こっそりと端の方で交換したのだ。
なのに佐倉に見られていたなんて。
「別に佐倉が思っているようなことじゃないよ」
「嘘つけ。ちなみにどっちが誘ってきたんだ?」
「柳さん」
「じゃあ柳さんが凪斗に気があるんだな。あっ、そのアイテム取って」
俺はパソコンのキーボードを操作しながら佐倉の指示に従う。
「異性同士で連絡先交換したからって、必ずしも恋愛に繋がるわけじゃないんじゃない?」
「……凪斗ってさ。時々男子高校生の脳じゃなくなるよな。なんていうか正論ぶつけるような感じの」
イヤホンから聞こえてくる佐倉の言葉に背筋が凍る。そして不満を吐き出すような低い声。
俺の中で危険信号が鳴り出した。
「いや誤解しないで。単純にそういう経験が無いだけだから」
「ふーん。じゃあ少しくらいは期待しているだろ?」
「……まぁ」
「ほらみろ」
佐倉はからかうように笑ってゲーム内の敵を次々と倒していく。それを一生懸命に追っていくのは弱キャラの俺。
パソコン前に座るリアルの俺は佐倉の機嫌が戻って胸を撫で下ろしていた。
「実際どうよ。柳さんに告白されたら付き合う?」
「…わからない」
「ハハッ。未経験の凪斗には難しいか」
「佐倉は確か、1年の時に彼女居たんだよね?」
「もう別れたけどな。今は3年の先輩にアタック中」
「凄いね」
俺はあまり恋愛について考えない。今までそういったことに掠りもしなかったから現実感が無かった。
だからこそ佐倉が1年の時に彼女が出来たという報告を受けて驚いてしまったくらいだ。
高校1年生に恋愛は早い。でもそう思っていたのは俺だけだったらしい。
次々と他のカップルが出来ていくのを見ていて自分の考えが古いということに気付かされた。
「彼女出来たら報告しろよ?」
「わかった。今の所予定は無いけど」
「大丈夫。候補は居るんだからな」
佐倉がそう言うとイヤホンの奥からマウスのクリック音が聞こえる。
その瞬間にゲームは終了画面に切り替わった。
「つーかさ。気になっていたこと聞いて良い?」
「何が?」
「凪斗。お前なんかあった?」
「え?どうして?」
「中間テストの時からなんかおかしいなって。最初はテストが嫌だからだと思ってたけど、ファミレスの時も変な顔していたからさ」
「へ、変な顔?」
「くらーい感じの悩んでいる顔」
俺は自分の頬に手を当てて触ってみる。今は普通の顔だ。笑っても泣いてもいない。
でも普段から素直に話す佐倉が言うのだから間違いないのだろう。
「あまり溜め込むなよ?話くらいなら聞いてやれる。解決出来るかは別として」
……佐倉は良い奴なんだ。ちゃんと友達を見てくれる。
けれど俺が今悩んでいることを言ったらどう反応されるのだろう。
俺がくらーい感じの顔をしていた理由には心当たりがある。というかこれしか無い。
「ありがとう。でも特に悩みは見つからないかな。単純に疲れたんだと思う」
「そーか。なら良いんだけど」
言えない。悩みの種が倉持さんと言い合いになったことだなんて。
佐倉は良い奴だ。だからこそ倉持さんの話題で機嫌を損ねたくない。“炎上した倉持さん”と関わっているって知られたら……。
「んじゃあ次のクエスト行くか~」
「OK」
佐倉はまだ俺をパソコンの前から解放してくれない。
あれ?何で俺、こんなに息苦しいんだ?
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